私を口説けません!

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 遡ること、数日前の夜。  私は夏風邪をこじらせて、高熱にうかされていた。  一人暮らしで体調を崩すと、こんなにも心もとないとは。  布団の中で目を瞑り、楽しいことを考えて、気を紛らわす。  思い浮かんだのは、じょうだった。  大好きなじょうが、私のことを心配して、LINEをくれるの。それに私が「大丈夫じゃない」って送ったら、スポーツドリンクやおかゆを買った袋を持って、私の家まで会いにきてくれるの。そして看病してくれて……  我ながら笑っちゃう、都合のいい空想。  そんなこと、起こるわけないんだ。  だって、じょうは同じ大学の同級生で、私の片想い相手。  一緒の学部と学科とゼミだからって、恋人ではない。  だけど、もし付き合っていたら。そんなこと、してもらえるんだろうか。 「それは、幸せだなーー……」  ここで、私はだんだんと意識が遠のいていって、眠った。  次に気がつくと、私は魔女と対峙していた。 「もし好きな人を乗っ取れたら、どうする? 何をする?」  魔女が言う。  どこか分からない雑な背景、不思議な人物、唐突な問い。  こんなにも夢と分かる夢を見るのも久しぶりだなと、夢の中で冷静な自分。  夢なんだもん。何を答えたっていいよね。 「じょうになれたら、私と付き合ってほしい」  魔女の顔はフードの影に隠れて見えないはずなのに、ニタリと笑った気がした。 「その願い、魔法で叶えてあげる」  そう言うと、どこからともなくホウキを取り出した魔女が近づいてきた。  反射的にビクッと肩が震えた。 「なあに、大丈夫だよ。乗っ取っている間の記憶は、こちらで都合よく作っておいてあげるからね」  魔女は私の周辺を囲うように、ホウキで線を描きはじめた。 「ちなみに魔法は三回まで。これは魔法界のお決まりよ」  言い終わると、線は円になっていて、私はその中に閉じ込められる形になっていた。 「それではどうぞ、いってらっしゃい」  そこで夢の記憶は途絶えた。  瞼をゆっくり上げるも、ひどく重たい。脳がまだ眠りたいと訴えているよう。  なんとか目を開けると、飛び込んできた光景に目を見開く。  そこは、知らない部屋だった。  私の一人暮らししている部屋ではない。  飛び上がるように上半身を起こすと、自分の手が男性的にゴツゴツしており、股間が膨らんでいるのに気づいた。  まさか、まさか──!?  鏡になりそうな物を手探りで探す。  視界がちょっぴりぼんやりしている。  枕元に、メガネとスマホが置いてあった。  手に取ると、見覚えのある品々。  これは……じょうのものだ。  メガネをかけて、クリアになった視界で、真っ黒のスマホ画面を見る。  そこに映っていたのは──紛れもなく、じょうだった。
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