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一人暮らしの家まで行ったが、〝ひなみ〟は出なかった。
ここにいないとなると、大学に行っている可能性が高い。
昨夜、あんなに高熱にうかされていたのに、もう回復したのかな。
いや、回復したのかは、ほんとうに不明だ。
現に、私がじょうの体を乗っ取っているという不思議体験をしていることが、その証拠。
しかたなく、大学へ向かう。
と、着いたころには、講義は終わっていた。
そして、教室から出てきた〝ひなみ〟を発見することができた。
「ひなみ!」
自分の口からじょうの声が出てきて驚く。
まだじょうを乗っ取っていることに、私が慣れていない。
呼び止めた私の体が、私のもとへやってくる。
「じょう、おはよう。珍しいね? じょうが講義サボるなんて」
私の声で流暢に話す私の体。
私の意思とは関係なしに、〝ひなみ〟は違和感なく動いている。私のように振る舞っている。
「じょう? どうしたの?」
〝ひなみ〟の問いかけに、私は戸惑った。
鏡以外で、私は私と対面したことがない。
得体が知れない私を前に、機転を利かすことができなくて。
「ひなみに会いにきたんだ」
「え、え? えっ、え」
〝ひなみ〟の顔がどんどん赤らんでいく。
私も、じょうに突然そんなことを言われたら、同じ反応をする。
「な、何言ってるの、じょう」
〝ひなみ〟はそう言い残すと、私をおいて歩いていってしまった。
…………これは……面白いことになっているかも……!!
スマホの電源をつけ、LINEを開く。
ひなみとのトーク画面へ行き、メッセージを送る。
「体調は大丈夫になった?」
数分して返信があった。
『大丈夫になったよ。心配してくれてありがとう』
〝ひなみ〟から、私もそう返すという回答が返ってきた。
じょうを乗っ取っている今は、私がしてきたじょうとの空想を実現できる。
〝ひなみ〟が去っていったほうへ追いかける。
それから〝ひなみ〟に頻繁に話しかけたり、LINEしたりしたのだった。
マップアプリを使ってじょうの家へ帰ってきたときには、もう眠気が限界だった。
頭も瞼も重たい。目が痛いまである。
バッグを床へ放り投げて、ベッドへダイブする。
体が横になったら、自然と瞼が落ちる。
そのまま眠りについた。
そして次に目を覚ましたら、私の一人暮らしの部屋だった。
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