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またまたひどく眠たい。
異常な眠気が伴うのは、乗っ取りの条件なのかもしれない。
だが、強烈な眠気に負けていられない。
抗うように、体を起こした。
私のルーティンはどんな状況でも変わらないみたい。
枕元に置かれたスマホを手に取り、思い出したかのようにメガネをかける。
電源を入れると、『れい』からLINEがきていた。『おはよう(スタンプ)』だ。
じょうを乗っ取っていることがバレないようにするためにも、『れい』におはようスタンプを送る。
じょうは男友達と毎日このやりとりをしているのかと思うと、ちょっと感心する。めんどうだって感じないのかな。
もし、じょうの恋人になったら、こんなふうなやりとりをするのかな……!
期待で胸が膨らむ。
そうとなれば、行動しなくては。
まず大学に行って、〝ひなみ〟と会い、デートに誘おう。
憧れだったんだよね、放課後デート。
「ひなみ。よかったら、この後一緒にご飯食べない? 近くに気になってるカフェがあるって言ってたよね。行こうよ」
講義終了後の〝ひなみ〟をそう呼び止めた。
よし。じょうのスマートさも演じられてるうえ、会話を覚えているよアピールもできた。
さぞかし〝ひなみ〟は嬉しいだろう。
上機嫌でついてきた。
私が理想とするじょうとのデートを、私が叶えよう。
そう張り切って〝ひなみ〟の対面に座ったものの、いざとなると緊張が押し寄せてきた。
「誘ったはいいものの、何を話せばいいか分からないや」
「ふふっ。私も急に誘われてびっくりしてる」
自分と話すって難しい。
ソワソワと落ち着かなく、食べ物があまり喉を通らない。喉ばかり乾く。
「大丈夫? お腹いっぱい? あんまり進んでないようだけど」
〝ひなみ〟に指摘される。
「いや、二人だと緊張しちゃって」
また私は機転が利かないことを言ってしまう。
「私と二人だと緊張するの? うふふ」
ご機嫌な〝ひなみ〟に助けられる。
それではいけない。私は、会話はリードしてほしいタイプなんだもん。
だけど、じょう自身の話はできない。私がじょうの記憶を引き継いでいないから。
だから、〝ひなみ〟にとにかく質問をして、そこから話を広げることにした。それしか方法がなく、できなかった。
〝ひなみ〟の回答はすべて予想通りだった。
当たり前か、限りなく私だものね。
会話をなるべくリードするよう意識して、その端々に「かわいい」「ひなみのそういうところいいよね」など、褒め言葉を散りばめる。
〝ひなみ〟はニヤニヤを隠しきれていない表情をしていたが、「そんなことないよ」と照れながら、なんだかこちらの好意をかわしているようだった。
そんなこんなでご飯を食べて、カフェを出ると、〝ひなみ〟のほうから解散を告げた。
私なら、じょうともっと一緒にいたい、って思うのに。
そのときの〝ひなみ〟だけは、よくわからなかった。
無理に〝ひなみ〟を引き止めなかったのは、スマートなじょうはそんなことをしないと思ったから。
私としては、理想的なアプローチを積極的にしたというのに、〝ひなみ〟はなぜ落ちなかったのかな、ということが引っかかっていた。
じょうの部屋でそのことを考えていたら、『れい』からおやすみLINEが届き、夜になっていたことを知った。
『れい』におやすみスタンプを送信したら、隅へ追いやっていた猛烈な睡魔に襲われ、私は眠ったのだった。
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