挿話2 魔法学校の支部長キャロル

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挿話2 魔法学校の支部長キャロル

「支部長。そろそろ特別授業の時間ですが」 「わーってるよー。けど、例の大商会の息子がいるだろー?」 「あぁ、クライヴ君ですか。彼は……残念ながら、もう学校飽きたって感じですもんね」 「そうなんだよ。アイツを何とかしたくてさー」 「流石は支部長です。何か彼の興味を引かせる為に苦心されているんですね」  副支部長がそう言って部屋を出ていった。  どうやら、私に集中する時間を作ってくれるみたいだけど、ハッキリ言って何も思いつかない。  クライヴはウチにとって大事な大事なカモなんだけど、魔法学校の本校を首席で卒業しているのに、支部に提携する価値があるか見極める……というのがねぇ。  上手くいってクライヴの眼鏡に適えば、新商品開発の提携がなされ、開発料として、魔道具の利益の二割が入ってくるという破格の契約が待っている。  はっきり言って美味すぎるので、是非やりたいんだけど、どうしたものやら。 「失礼します。支部長、お客様です」 「悪いが今は忙しい」 「領主様のお孫さんですが」  ただでさえ時間がないというのに、領主の孫が来ただと!?  しかも、独学で魔法を学んだから、自分の力量を知りたくて話を聞きたい!?  こっちは領主の孫の趣味に付き合わされる時間なんて……いや、待てよ。  独学の者と比べて、正しく魔法学校で学んだ者との力量差をクライヴに感じてもらおう。  魔法学校に通っていない者は、この程度の魔法しか使えないのだと、理解させるんだ!  そうすれば、この辺境の地で魔道具を作ろうとしたら、我々魔法学校と組むしかないと気付くはず! 「アルマ嬢。そういう事なら丁度良い相手がいる。着いて来るが良い」  いつもの的当てを行い……おっ、少し成長しているじゃないか。  うーん。この子はまだまだね。魔法制御の基礎理論を理解させるべきかな。  それから……って、いつも通りにやり過ぎたっ!  アルマ嬢と支部に通う生徒とを比較するつもりだったけど……まぁクライヴと直接対決でも良いか。 「それでは……スタートっ!」 「風魔法……風塵の矢」 「……は?」  いやいやいや、今の詠唱してなかったでしょ!?  無詠唱魔法!? そんなの本校どころか、国内トップの宮廷魔道士でも無理でしょ!  しかも、風の矢を十本同時に放って全弾命中!?  嘘でしょ!? いや、もちろん最初から広範囲攻撃の魔法を使えば私だって出来るけど、初歩の魔法を改変して同時に……って、無理無理無理! 「師匠! どうか俺を弟子に……」  待って! クライヴがアルマ嬢の弟子になるのは勝手だけど、魔道具の商品開発はうちでやらせてくれるよね!?  領主の孫に話を持っていったりしないわよね!?  向こうは祖父が領主なんだから、お金に困っていたりなんてしないでしょ!  こっちは爪に火を点すようにして頑張っているんだよっ!? 「あの、師匠と言われても困ります。私はまだまだ魔法を学ぶ側の身ですし」 「魔法の探究者という事ですね!? それほどの技術を持たながら、流石です! どうか俺にもそのお手伝いをさせてください!」  あ、マズい。やっぱりクライヴがアルマ嬢をスカウトしようとしている。  これだと、見込んでいた資金源が……そうだ!  このアルマ嬢をこの学校の講師という事にしよう!  そうすれば、魔道具開発の開発料が得られる上に、無詠唱で魔法改変なんて意味不明な事をやらかす、本校にも宮廷魔道士にもいない人材を、私の部下に出来るんだ! 「ふふっ、流石はアルマ嬢ね。皆さんに色眼鏡で見られないように校外の者と言いましたが、実はこちらの彼女は……今度新たに就任した講師なんです!」 「……いえ、違いますけど」  いや、空気っ! 空気を読んでっ!  ここは驚きつつも、周りの空気に流されて、強引ながらも魔法講師に就任するところでしょっ!? 「こ、こほん。アルマ嬢。貴女はこの学校へ講師として皆に魔法を教える為に……」 「違います」 「教育に強い関心を……」 「教わる方ならありますが」  アルマ嬢ぉぉぉっ!  お願いだから、うちの支部に来てっ!  というか、私にも無詠唱魔法のやり方を教えてよっ! 「あの、私はそろそろお暇させていただきますね」 「えっ!? 師匠!? お待ち下さい、師匠!」 「待って! アルマ先生! 貴女はもうこの学校の講師なんです! アルマ先生ぇぇぇっ!」  叫ぶクライヴと私に頭を下げ、アルマ嬢が魔法訓練場を出ていった。  私は諦めないからねぇぇぇっ!
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