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第10話 聖女
「アルマ様、ウィリアム様。お待たせいたしました。出発致しましょう」
魔法学校を発とうとして、キャロルさんとクライヴっていう生徒さんが追いかけてきたけど、エミリーさんの説得により、ようやく出発出来るようになったみたいだ。
「アルマお姉ちゃん。中で何があったの?」
「んー、一緒に魔法の実践授業に出ただけなんだけどね。特別な事は何もしていないし」
「そうなんだ。それにしては、お姉ちゃんに凄く執着していたような気がするんだけど……」
ウィル君が不思議そうにしているけど、あの場に残っていたら、何故か私が魔法を教える側になりそうだった。
独学で本から魔法を学んだだけの私が人に魔法を教えるなんておこがましいし、教えられる程の実力なんてないからね。
それから、エミリーさんが御者さんと話し、馬車が動き出す。
「エミリーさん。次はどちらへ向かわれるのですか?」
「領主様が最も力を入れておられる、街の基盤構造を担う場所です。魔法学校へ到着する前に少しお話し致しましたが、街の地下の水路により誰でも水が簡単に使えるようになりました。この技術を支えている方々がおります」
「そっか。作って終わりっていう訳ではないのですね」
「えぇ。何かあった時に対応も必要ですし、その何かが起こらないように予防的にメンテナンスもされます。また、魔法の力を人々の為に役立てるようにと、新たな研究も行っているそうです」
凄い! 魔法の力を人々の為に……私がやりたい事が、そのものずばりって感じだ!
お話を聞かせていただき、是非そこで何か知らおお仕事が出来ればと思う。
エミリーさんが、私のやりたい事を汲んでくれていて、凄く嬉しく思い、早く着かなと思っていると、突然馬車が停まった。
「ど、どうしたのですか!? まだ目的の場所には着いていないはずですが」
「いえ、それが……どうやら事故のようです。前方で馬車に轢かれたと思わしき子供が倒れておりまして」
「えっ!? 大変っ!」
エミリーさんと御者さんが話しているのを聞いて、慌てて馬車から降りる。
馬車の前方には、数人が集まっており、その中心には頭から血を流している男の子が倒れていた。
「アルマ様っ!? お待ちください! 治癒院には私から連絡を……」
「頭から血を流しています。到着まで待っていられません!」
「ですが、あれだけ血を流していると、我々に出来る事など……」
「いえ、大丈夫です! 見たところ、事故からまだそれ程時間が経っていなさそうですから!」
背後からエミリーさんの声が聞こえてくるけど、今はそれよりもあの子供だ。
今ならまだ間に合う!
「どいてください!」
「えっ!? アンタは……」
突然飛び込んできた私に周りの人たちが驚いているけれど、今はそれどころではない。
男の子の頭に手を添えると、すぐに魔法を使用する。
「時魔法……時間遡行!」
「えぇっ!? 子供の傷が治った!?」
「この子の怪我をした部分だけ、時間を巻き戻しました。傷跡も残って居ませんよ」
ほんの僅か、特定の小さな範囲を数分間だけ戻せる魔法を使用すると、ぐったりしていた男の子が目を開き、周囲を見渡し……立ち上がって走り出す。
「あっ! ママーっ!」
「坊やっ! 良かった……本当に良かった! ……あの、お嬢さん。本当にありがとうございます。どのようにお礼をすれば……」
「いえいえ、お礼など不要ですよ。その子が無事で良かっ……」
男の子のお母さんがお礼を言いにきたけど、それが不要だと言って立ち上がり……急に眩暈が。
マズい……倒れる!
「アルマ、お姉ちゃん! 大丈夫!?」
「あ、ウィル君? ごめんね。ありがとう。重くない?」
「重い訳ないよ。それより、今のは治癒魔法なの? 凄い魔法を使ったから、魔力が無くなって……」
「え? ううん。違うよ? 急に全力で走ったから、立ち眩みがしちゃって」
「えぇ……この距離で? お姉ちゃん。運動しなさ過ぎ……」
倒れると思ったところで、馬車から走ってきたウィル君に抱きかかえられる。
ウィル君に手伝ってもらって、何とか真っすぐ立つと、
「ち、治癒魔法! 聖女様だっ! 聖女様がこの街へやって来てくださったぞ!」
「馬車に轢かれた血まみれの子供を助けたんだ! 聖女様だぁぁぁっ!」
「聖女様っ! 助けてくれてありがとー!」
いつの間にか周りの人たち聖女だと言いながら頭を下げている。
え? ま、待って! 違うから! 私は光魔法なんて使えないし、今のは時魔法で……聖女は妹のイザベラであって、私じゃないのよーっ!
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