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第11話 研究所
「アルマ様は治癒魔法が使えないと仰っていましたが、先程のは実質的に治癒魔法では?」
「ううん。さっきのは根本的に違うから、あれを治癒魔法って言われると困るのよ」
治癒魔法とは、初歩的な効果としては、人の回復力を高めて怪我や病気を治す魔法だ。
高位の魔法ともなれば、光の精霊の力を借り、人の回復力では治せないような数も治してしまう。
その一方で、さっき私が使ったのは、怪我をした箇所の時間を少しだけ戻す時間操作の魔法だ。
未熟な私には数分間だけ、それも僅かな範囲を戻すだけなので、時間が経った怪我は治せないし、身体全体に広がるような病気も治せない。
という訳で、先程はそう見えたかもしれないけど、全く違う魔法なのだ。
「でも、さっきのアルマお姉ちゃんは凄かったよ。倒れた子供に駆け寄って、抱きかかえて……女神様みたいだったもん」
「えぇ……女神様はもっと神々しいわよ」
「ウィル様には、アルマ様がそのようにお見えになったのですよ。勿論、あの親子にとってもですが」
ウィル君とエミリーさんから、過剰に褒められてしまい、困惑してしまう。
イザベラが使う光魔法による治癒魔法はもっと凄いだろうし、そもそも闇魔法使いと勘違いされている私が、地方とはいえ目立ってしまうのは困る。
あの場にいた人たちには、私の事を内緒にしておいてとお願いしたけれど……大丈夫だろうか。
そんな事を考えていると、今度は馬車がゆっくり停まった。
「アルマ様。着いたようです。こちらへどうぞ」
街の中心部からかなり離れた、街の端にある大きな建物……そんな場所へ入って行く。
少し奥へ行くと、大きな門があり、槍を手にした兵士さんが立っていた。
エミリーさんが言葉を交わすと、奥から獣人族の……頭に大きな猫耳が生えた男性がやってきて、中へと入れるように。
「初めまして。ようこそ、基盤研究所へ。私はここの副所長を勤めるケヴィンと申します」
「初めまして、アルマと申します。ところで基盤研究所とは?」
「はい。街の人たちが便利に暮らせるような生活基盤を研究し、整備しております。現時点では、各住居への水の提供が成果となります」
研究所といっているけれど、エミリーさんが言っていた話だ。
是非ともお話をお伺いしたい。
「あの、出来ればどんな事をされているか、実際に見せてもらう事は可能でしょうか?」
「勿論です。先程、私は副所長だと申し上げましたが、所長は領主様です。お孫さんであるアルマさんは、危険な場所以外であれば、何処を視ていただいても構いませんよ」
「ありがとうございます。ちなみに、危険な場所というのは?」
「例えば、水の浄水槽の中とかでしょうか。模型でご説明は致しますが、実際に中へ入りたいと言われると、流石に安全が保証出来ないので」
興味はあるものの、流石に装置の中までは入らないかな。
水が入っていない時なら、行ってみたいけど。
という訳で、今回はウィル君やエミリーさんも一緒に、この研究所の説明を受けさせてもらう。
「最初に全体の概要ですが、ざっくり言うと、河の水を取り込んで、先ほど申し上げた浄水槽でゴミなどを取り除き、街の地下の水路に送り込みます」
「そのお水を各家やお店で使えるのよね?」
「はい。更に、送る時とは別の水路で、使われた水を回収して河へ流します」
「ん? そのまま河へ流しちゃうんですか?」
「はい。あ、ちゃんと水の取り込み口よりは下流に放出しているので、汚くないですよ」
うーん……それで良いのかな?
魔法が使えなくても誰でも水が使えるっていうのは素晴らしい事だと思うんだけど……どうなのかなー。
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