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第12話 絶望するケヴィン
「……といった感じです」
「なるほど。ありがとうございます! あの、早速で申し訳ないのですが、私をこちらで働かせていただけないでしょうか」
「それは勿論構いません。改めて申し上げますが、ここの所長は領主様ですし、アルマ様がここへ来られたというのは、おそらく許可も出ているのでしょう」
ケヴィンさんの言葉を聞いて、エミリーさんが小さく頷く。
既にお爺様の許可を得てくれているんだ。
「では、河へ流す水を貯める、貯水槽を作れませんか? 出来るだけ早く」
「えっ!? 河へ流す水を貯めるのですか!? 水量が少ない時に備えて、取り込む水を貯める貯水槽ではなく?」
「はい、逆です。街で使った水をそのまま河に流すという事は、下流にゴミや汚水を垂れ流すのと同じですよね?」
「それはそうですが……」
ケヴィンさんは腑に落ちていないみたいだけど、私が下流に住んでいて、上流から汚い水が流され続けたら、間違いなく嫌な気分になると思うんだよね。
住人のために水路を整備するっていうのは凄く良いと思うから、下流に住む人たちにも少し意識を向けてあげてほしい。
「ひとまず、実際に河へ流している箇所を見せてもらえますか?」
「は、はい」
ケヴィンさんに案内してもらい、研究所の裏手へ馬車で向かう。
今更ながらに気付いたけど、街から離れた場所だし、お爺様の……領主による運営だからか、物凄く広い。
暫く進むと、大きな河が見えてきて、川上に大きな筒のようなものが入り込んでいる。
その一方で、川下へ移動すると、段々と変な臭いが漂ってきた。
「アルマ様。そろそろ、この辺りで……」
「河へ放出しているのは?」
「あちらです」
獣人族のケヴィンは私たちよりも鼻が利くのだろう。
かなり辛そうにしているけど、そのケヴィンの示す先に目をやると、研究所の敷地から出ている筒のようなものから、汚れた水が滝のように河へ流されている。
でも、辛く感じる程に臭い水を流されている下流の事を考えないのは良くない。
今すぐ何とかしなければ。
「あの筒の向こう側は何もない荒地ですが、あそこも研究所の敷地でしょうか?」
「え? えぇ。まだ何も計画はありませんが、領主様が将来の為にと抑えられています」
「わかりました。でしたら、使っても大丈夫ですよね」
ケヴィンさんには申し訳ないけど、放水している筒を越えた先へ向かうと、
「土魔法……掘削」
早速魔法で巨大な穴を掘っていく。
この魔法は砂や土を削り、穴の側面を押し固めているだけなので、地中にあった岩はそのまま穴の下に残っている。
その岩の幾つかを風魔法で持ち上げると、更に土魔法で筒状に加工して、河へ水を放水している筒へと繋げた。
「あ、アルマ様!? 一体何を……」
「あの汚い水を下流に流せば、下流に住む人たちや生物に悪い影響を与えてしまうので」
「ですが、幾らこれ程大きい穴でも、いつかは満杯になってしまいますよ?」
「勿論、ここへ全て注ぐというつもりではありません。この穴が満杯になる前に、水を綺麗にしてから河へ流す方法を考えましょう」
「この汚水を綺麗に……」
ケヴィンさんが絶望的な表情を浮かべているけど、本当に絶望しているのは、この下流に住む人たちだからね?
とにかく、大急ぎで改善しなきゃ!
これまでの魔法の勉強の成果を発揮する時よ!
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