第15話 問題解決

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第15話 問題解決

「アルマ様! 大変です! 排水側の池が浅くなっています!」  慌ててやってきたケヴィンさんによると、私が最初に掘った池の沈殿物が想定以上に多いそうだ。  このままだと、深さが足りなくなり、ゆっくりと沈殿出来ない。  そうなると、二つ目の池にも汚い水が流れていく。  浄化魔法を込めた魔石は、綺麗な上澄みを想定した効力なので、当然浄化しきれなくなり、いずれは河へ放水する水が汚くなってしまう。 「あの、河から水を取り込む方も、同じ様に最初は沈殿させているはずですが、そっちは大丈夫なのでしょうか」 「はい。取水側は浄化槽……大きな水槽みたいなものに水をためて沈殿させており、底にたまった沈殿物を除去出来るようにしているんです」  なるほど。排水側は私が土魔法で掘った穴なので、底に溜まったものを除去するような仕組みはない。  今から新たに……と言っても、そもそも地中深くにそんな装置を設置するのは難しいし、新しい貯水槽と除去する仕組みを作るのは時間が掛かってしまう。 「……ケヴィンさん。また魔石をお借り出来ませんか?」 「それは構いませんが、浄化魔法を込めた魔石を増やしても、沈殿物自体をどうにかしないと……」 「はい、勿論です。浄化魔法の魔石はそのままで、沈殿物をどうにかしようかと」 「えっ!? どうやって……」 「それを今から試行錯誤しようかなと」  一応、案はある。  だけど、二つの魔法を組み合わせるので、魔石の魔力容量に収まるかどうかが問題なのよね。  ひとまず一番大きな……ケヴィンさんの拳より二回り程大きな魔石を借りてきた。 「しかし、沈殿物を除去する魔法とは? 全く想像も出来ないのですが」 「まずは実験で、触れた物を風の力で押し返す魔法を込めます。風魔法……風壁」  手にした魔石に何かを近付けると、同じ極の磁石が反発するように、ゆっくりとものが動く。  これは水も対象で、この魔石に水を注ぐと、避けるようにして流れ落ちていった。  ちなみに、私の魔力で動いているので私自身は触れるけど、ケヴィンさんが魔石に触れようとすると、風の力で押し返される。 「あの、これを協力にすれば沈殿物を除去出来るかもしれませんが、そもそも沈殿しなくなるのでは?」 「いえ、これはただの実験です。一度、時魔法で元の状態に戻して、次は二つの魔法を同時に組み込みます」  今度は風壁の魔法に加え、火魔法も一緒に込める。  火魔法は水魔法の対極にあるので、この火の力を使って、風壁の有効範囲から水を除外する。 「へぇ……こんな事が出来るんですね」 「昔読んだ本に、魔法の相関関係の事が書かれていまして、それを応用したんです」 「なるほど。これで、水中でも水以外のものを動かせる……って、さっきも言いましたけど、動かすだけでは意味がないのでは?」 「いえ。ここからが本番です。先程は風魔法でしたけど、次は時魔法を込めます」  という訳で魔石を元に戻して、時魔法の空間転移と火魔法を一緒に……あー、割れちゃったかー。  風壁よりも、空間転移の方が魔力を沢山必要とするからね。 「ちょ、ちょっと待ってください。空間転移……って、何ですか!? いえ、この壊れた魔石を戻す魔法も十二分に凄いんですけど、そんな魔法があるんですか!?」 「はい。ただ、空間転移は闇魔法と勘違いされる事が多いので、あまり言わないでくださいね」 「あー、闇から闇へ移動する魔法でしたっけ? でも、これは違うんですよね?」 「えぇ。時魔法です」  魔力を調整して、少量ずつ特定の場所に転移させるようにすると、上手くいった。  沈殿物の量によっては、この魔石を増やさないとね。  ケヴィンさんと相談し、沈殿物を転送する場所を決め、座標を調整し……出来たっ! 「という訳で、この魔石を一つ目の穴の底へ沈めましょう。私の魔力で掘った穴なので、穴の底自体が転送される事はないはずです」 「えーっと、水とアルマ様が掘った穴は対象外で、それ以外のゴミを焼却場へ転送する魔石……って、凄すぎませんか?」  何故かケヴィンさんが困惑しているけど、一つ目の穴の中心地に向かって魔石を投げる。  静かに魔石が沈んでいったので、焼却場へ移動すると、少しずつ土砂やゴミが転送されてきた。 「これで、あとは転送されてきたものを処理していくだけですね」 「えぇ。何とかなりそうで良かったです」  沈殿物が予想外に多かったけど、無事に解決出来た。  あの魔石を使って、街の人たちの為に、もっと何か出来ないだろうかと考えながら屋敷へ戻ると、お爺様に出迎えられる。 「おぉ、アルマよ。おかえり。ゆっくり帰ってきてくれて良かったよ」  いつも執務室に居るお爺様がエントランスに居るなんて、どうしたのだろうか。 「お爺様。何かあったのですか?」 「ふむ。まぁその、いろいろとな。夕食を食べながら話そうか」  何か歯切れの悪いお爺様の返事と共に、食堂へ向かった。
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