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第2話 時魔法
「さぁ、この鏡の前に立ってもらおうか」
騎士さんたちに連行されて、詰所の小部屋に入れられると、経験の姿見という魔道具の前に立たされた。
今は水色のドレスに乱れた金髪碧眼の女性――つまり私の姿が映っているだけだが、これは映し出されている者が、これまでにどれだけの経験を積んできたかがわかるという代物で、冒険者ギルドなどに設置されている事が多い。
「お前が本当に闇魔法を使った事が無いと言うのなら、ここに闇魔法という言葉が表示されないはずだ」
「では、表示されなければ帰らせてもらいますよ?」
「あぁ、表示されなければな。さぁ、良く見ておけ! 偽証は不可能だぞ」
本当に使った事がないので、堂々と鏡を見つめる。
少し待つと、鏡に私の名前が表示され、その下に火、水、風、土の四種の魔法と、時魔法が表示され、それぞれの練度が表示された。
もちろん、闇魔法なんて言葉はどこにも表示されていない。
「……これで証明になりましたよね?」
「なっ……た、確かに」
「帰って良いですよね? あと、私の父に誤りだったと連絡いただけませんか? きっと心配していると思うので」
「か、畏まりました。ご、ご自宅までお送り致します」
私が闇魔法を一度でも使っていれば、練度が一と表示されるけど、それが無いので、逆に使っていない事が証明された。
なので、家まで騎士さんたちが送り届けてくれる事になったんだけど……一つ気になる事がある。
「あの、そもそもどうして私に闇魔法の使用疑惑が生まれたのですか?」
「いや、発言に信憑性のあるお方からの通報があったので。ただ、時魔法というのは我々も初めて聞くので、もしかしたらそのお方も、闇魔法と時魔法を勘違いされたのかもしれません」
「そのお方というのは?」
「聖……いえ、申し訳ありません。我々から申し上げて良いか分からず、上の判断を仰がせてください」
うーん。騎士さんたちが証拠も無しに信じて行動に移す程の人が、私に闇魔法の疑惑を掛けたという事ね。
しかも、被害者とも言える私に話をするのに、上……騎士団長とかの判断が必要という事は、相手は王族とかだろうか。
あっ! まさか、トラヴィス王子!? さっき、突然私に婚約破棄とか言ってきたし。
いやでも、王子がイザベラへ会いに来た時にすれ違う程度の関係だし……いやでも、イザベラを待つ間を繋ぐ為に、時魔法の事を話した記憶はある。
もしかして、そのせいなのっ!?
騎士さんたちも、時魔法の事を知らなかったし……世間は時魔法の事を闇魔法だと誤認しているっ!?
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、何も無い場所から、事前に収納しておいた品物を取り出せたりするのって、どういう魔法だと思います?」
「え? 詳しくはないですが、それって闇魔法ですよね? 影の中から武器とかを取り出す魔法かと」
「……では、離れた場所へ一瞬で移動するのは?」
「闇から闇へ移動する闇魔法だと思いますが?」
「……で、では、相手の動きを止めたりするのは?」
「それも闇魔法ですよね? 確か影縫いでしたっけ?」
だ、ダメだ。
異空間に収納した物を取り出す魔法に、離れた二箇所の時空間を繋げる転移魔法、それから対象の時間を止める魔法……どれも時魔法なんだけど、世間では闇魔法だって認識されているんだ!
私が使える時魔法は、さっき例に出した異空間収納と、詳しく知っている場所へ移動出来る空間転移。そして、時間を止める……事はまだ出来なくて、指定した極一部の範囲の時間を戻す事のみ。
だけど、これらが闇魔法ではなくて時魔法だと言って回って……って、この誤解を解くのにどれだけの時間を要するの?
せっかくイザベラが聖女に選ばれたというのに、姉が闇魔法使いだと世間に知られると、あの子が活動しにくくなるかもしれない。
だったら……イザベラの為にも、私は屋敷を出て離れるべきだろうか。
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