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第17話 アルマの休日
「じゃあ、今日も研究所に行ってきま……」
「アルマよ。待つのだ。このところ、ずっと研究所に通い詰めではないか」
「あれ? そうでしたっけ? 魔石を使った魔法の実験が楽しくて」
「水の浄化は終わったのだろう? 働き過ぎだ。週末くらい休みなさい」
朝食をいただき、出掛けようとしたところでお爺様に止められてしまった。
仕方がないので部屋で本でも読もうかと思ったけど、持ってきた魔道書は殆ど読み終えている。
どうしようかと考えていると、ウィル君が何か言いたげに私を見つめていた。
……なるほど! ウィル君も休日で暇を持て余しているのね?
「ウィル君! お姉ちゃん、本屋さんへ行こうと思うんだけど、一緒に行く?」
「うんっ! 行くよー!」
ウィル君に声を掛けると、パァっと顔を輝かせる。
思い返せば、最近はずっと研究所に行っていて、ウィル君とあまり遊んであげられていなかった。
その代わりに少しでも接する時間を持ちたいと、夜にウィル君のベッドに忍び込んで一緒に寝たら、朝に耳まで真っ赤に染めて怒るんだよねー。
毎回無言で顔を逸らされると、お姉ちゃん泣いちゃうよ?
……っと、それはさておき、そろそろ本屋さんが開く時間だと思うので、ウィル君と一緒に外へ。
「……どうして今日もエミリーが一緒なの?」
「ウィリアム様。私の事は置き物だと思ってください。どうぞお気になさらず、毎朝のように眠るアルマ様へ抱きついて……」
「わぁぁぁっ! お、お姉ちゃんはどんな本を探すの?」
エミリーさんと話していたウィル君が急に話を振ってきたけど、私は二人の楽しそうな会話を聞いているだけでも大丈夫だよ?
それから、どんな本でも読んでみたい……と話しているうちに、大通りへ到着した。
どんな本があるかな? と考えながら窓の外を眺めていると、明らかに周囲から浮いた、眼光の鋭い騎士……と、その隣にトラヴィス王子がいるんだけどっ!
どうしてっ!? トラヴィス王子は昨日帰ったんじゃないの!?
「ん? お姉ちゃん。どうかしたの? ジッと何処かを見つめているけど」
「え? いえ、何でもないのよ。それより、本屋さんは……」
「アルマ様。あちらでございます」
ウィル君が私の視線に小首を傾げ、エミリーさんがお店を教えてくれたけど……このお店の前で馬車から降りたら、トラヴィス王子に見つかる可能性がある。
もしも見つかってしまったら「王都から遠く離れた場所へこそこそ逃げているのは怪しい! やはり闇魔法使いであろう!」などと言われかねない。
後ろめたい事は一切ないけれど、ややこしい事になるのは嫌だし、ウィル君やエミリーさんに迷惑を掛けたくないので、馬車を少し奥へ……路地の方まで走らせてもらう。
「お姉ちゃん。どうして、こんな奥の方へ? お店の入口から離れちゃったよ?」
「お、お店の前に場所を停めたら、他のお客さんに迷惑だと思って」
「流石はアルマ様。素晴らしいご配慮です」
エミリーさんが誉めてくれたけど……言えない。ただ、トラヴィス王子に見つかりたくないだけだったなんて。
そんな事を思いながら馬車を降りると、何処からか男性の話し声が聞こえてきた。
「……間違いないのか?」
「あぁ。第三王子だ。拐えば身代金で一生遊んで暮らせるぞ」
「待て! 護衛の騎士が向かってくるぞ」
「チッ! 時間を稼げ! 矢で援護する!」
大変っ! あの人たち、トラヴィス王子を狙っているんだ!
何とかしなきゃ……って思ったけど、あっという間に騎士さんが男性に肉薄し、剣を弾き飛ばす。
そこまでは良いんだけど、別の男性が弓矢を構えているし、騎士さんが最初の男性を斬り捨てる勢いだ。
弓矢の人は押さえないといけないし、一人目についてはもう勝負がついている。
これは……
「草魔法……捕縛」
地面から蔦を生やして、騎士さんを除く男性を縛り上げる。
「騎士さん。もう逃げないでしょうし、抵抗もしないでしょうから、無駄に傷付けないでください」
そう言うと、男性たちを見た騎士さんが納得してくれたようで、剣を収めた。
なので、もう大丈夫だろうと判断し、トラヴィス王子に見つかる前に本屋さんへ。
「お姉ちゃん。凄い……草魔法なんていうのがあるんだね!」
「アルマ様。流石です。何という鮮やかさ……私たちが知らない所で、日々悪人を捕らえていたのですね!?」
「そうなの!? くっ……ぼ、ボクも頑張る! 研究ではお姉ちゃんを助ける事は出来なさそうだけど、悪い人からお姉ちゃんを護れるようになってみせるから!」
えっ!? ウィル君もエミリーさんも、何か盛大に勘違いしてない!?
私はたまたま見かけたから止めただけであって、普段はこんな事をしていないからね!?
偶然だからねっ!?
それから、興味が湧いた本を何冊か買い、本屋さんを出ると、
「あっ! アルマ師匠ーっ! 俺に魔法を教えてくださいっ!」
クライヴ君と鉢合わせ、思いっきり叫ばれる。
お願い、待って! まだ近くにトラヴィス王子が居るかもしれないの!
「アルマ先生っ! 今日こそ、うちの学校で授業を! もちろん私にも教えてっ!」
キャロルさんまでっ!?
どうして、今日に限って私の名前を叫ぶ人に遭遇するのっ!?
大急ぎで馬車に乗り込み、帰路に就いてもらった。
「うん。やっぱり部屋で大人しく本を読んでいるのが良さそうね」
「……お姉ちゃん。でもそこ……ボクのベッドだからね? ……別に良いけど」
自分の部屋はあるけど、せっかくなのでウィル君とお話しを交えながら、さっき買った本の知識を得る事にした。
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