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第19話 行方不明
翌日。今日も時魔法を効率良く使う為の方法を模索しようと、使わせてもらっている研究所の一室で魔法の実験に励む。
今日は、空間転移魔法の効果を込めたように、時間遡行魔法を魔石に込めようと思ったんだけど……一番大きな魔石が二つに割れてしまった。
「うーん。かなり効果を下げて、極小の範囲にしたけど、それでも魔石の限界を超える魔力量になっちゃうか」
実際、私も時間遡行を人に三回使うだけで魔力枯渇を起こしてしまうけど、他の魔法は何十回と使う事が出来るので、魔力の消費量が全く違うのだろう。
限られた範囲とはいえ時間を戻すのだから、当然と言えば当然かもしれないけど。
とはいえ、魔石などの無機物に対して使うのであれば、もっと消費量は少なくて、何度も使えるんだけどね。
人間の身体は鉱物よりも遥かに複雑で、筋肉とか骨とか血管とか、様々なものがあるから、同じ範囲でも戻すものが多いのかもしれない。
魔石のアイディアは一旦止めて、やっぱり効果範囲を広げる方針にしようとしたところで、ケヴィンさんがやって来た。
「アルマ様……」
「まさか、また魔獣の被害者ですか!?」
「いえ、そうではなくて、こちらの方がご相談があるとの事でして」
ケヴィンさんの言葉に続いて、エミリーさんが部屋に入ってきた。
「あれ? エミリーさん。どうかされたのですか?」
「はい。あの……実は、ウィリアム様が学校へ行っていないようでして。もしかしたら、アルマ様の所へ来ているのかと思いまして」
「来ていないけど……まさか行方不明って事ですか!?」
エミリーさんが静かに頷く。
ウィル君も貴族なので、人攫いにあったという可能性がある。
「お爺様にご連絡は……」
「既にしております。街では衛兵がウィリアム様の捜索にあたっておりまして、私も探しているのですが、もしかしたら……と思い、来させていただいたのです」
エミリーさんによると、いつもの通り学校の前まで馬車で送り、間違いなく校門の中には入ったそうだ。
ウィル君は今まで授業をサボったりした事は一度もないらしく、学校内でも先生方や兵士さんたちが捜索に当たっているが、学校の敷地内に曲者が身を潜めていたのではないかと考えられているらしい。
「ですが、ウィリアム様を人質とした何の要求も、まだ無いのです」
エミリーさんがウィル君の事を心配してオロオロしている。
ウィル君の事を聞いて、私もオロオロしそうだったけど、二人して慌てていてもダメだ。
「エミリーさん。ウィル君の学校へ連れて行ってください!」
「え? は、はい。わかりました」
「ケヴィンさん。すみませんが、ちょっと出てきます」
エミリーさんと馬車に乗り、ウィル君が通う学校へ行くと、門が固く閉ざされていた。
「我が校に何の用か」
「従姉弟が行方不明になったと聞いてやってきました」
「こちらの方は、アルマ・ウォレス様です。姿が見えないウィリアム様と同じく領主様のお孫さんにあたります」
門の前に立つ屈強な男性に説明して門の中へ。
敷地内では、教師と思われる人や兵士さんたちがウィル君の手掛かりがないかと、地面を覗き込んだり、茂みの中を探したりしている。
「エミリーさん。私たちは別の場所を探しましょう」
「えっ!? 学校に居ないというのがわかったのですか!?」
「いえ。これだけ大勢の方が細かく調べて下さっているんです。今からここに混ざって、誰かが探した場所を再び探すよりも、違う場所を探した方が良いかと思いまして」
「わかりました。ですが、一体何処を……」
不安そうなエミリーさんと共に馬車へ戻ると、大通りから外れた道を走ってもらう。
もちろん、ウィル君の居場所にあてがある……訳ではなく、人攫いは大通りにはいないだろうという考えだ。
とはいえ、馬車が通れるような道に怪しい馬車はなく、もっと細い路地などは何かしらで絞り込まないと探しようがない。
「ウィル君は朝に学校へ行ったんですよね?」
「はい。アルマ様をお送りして、屋敷へ戻った後、すぐにウィリアム様をお乗せして、再び出発しております」
「それなのに、お祖父様の所へ何の要求も無いという事は、まだ学校内に隠れているか、街の外へ逃げて、隠れてから要求する気では?」
「な、なるほど」
「学校内に潜んでいるなら時間の問題だから……街の外を探してみましょう」
そう言って、馬車で街の外へ向かってもらっているけど、本当に別の街へ逃げているのであれば、もう手遅れかもしれない。
ウィル君……どうか無事でいて!
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