第20話 ウィル君の捜索

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第20話 ウィル君の捜索

「すみません。今朝から、ここを怪しい馬車が通っていないでしょうか」  ウィル君を探して街の東にある門へやって来た。  この街を出るには、西が東のどちらかの門を通らなければならないし、街の外へウィル君を連れ出すとしたら、馬車を使う事になるはずだ。 「怪しい馬車……ですか。特にそんなのは通っていませんが、何かあったんですか?」 「何か……って、ウィリアム様が行方不明だという話を知らないんですか!?」 「あぁ、それでか。いや、本当は今日は非番だったんですが、急遽呼び出されたもので」  なるほど。門番の方もウィル君捜索に加わる為、休みの方に来てもらったという訳ね。  エミリーさんがちょっと不機嫌だけど、事情を説明していない人に責があり、この人が悪い訳ではない。  なので、仕方がないのだけど、思わぬ言葉が出てきた。 「ところで、そのウィリアム様って、領主様のお孫さんですよね?」 「えぇ、そうですが……」 「それなら、俺が交代してから少しした後に、ここを通って行きましたが」 「ほ、本当ですかっ!? 「えぇ。お一人で、いつもの場所へ行くって言っていましたけど……案内しましょうか?」 「お願いしますっ!」  一時的に門を開閉する人が居なくなってしまうけど、緊急事態という事で、門番の方に同行してもらい、案内してもらう。  少し馬車を走らせると、すぐに街道から逸れて、北にある森へ。  馬車から降りて森に入ると、少し進んだところで激しい物音が聞こえてきた。 「いつもは、この手前くらいにいるんですが……うげっ!? まさかあれは、ブラッド・バイパー!? どうして、こんな凶悪な魔物がこんな街の近くの森に!?」  門番さんの視線の先を見てみると、私の身長よりも高く、とても大きな赤黒い蛇が居て、その先にはボロボロになりながらも剣を振るうウィル君が居た! 「ウィル君っ!」 「だ、ダメですっ! あんなの、騎士団を呼ばないと討伐出来ない魔物だっ! 尻尾で叩かれただけでも即死しかねないんだぞっ!」  駆け出した私を門番さんが止めようとするけど、そんなに強力な魔物なら、尚更早く助けないと! 「氷魔法……絶対零度」 「いや、ブラッド・バイパーに魔法は効かな……え? 何がどうなっているんだ!? 魔法耐性が高くて、魔道師キラーって呼ばれているのに!?」  黒い蛇を凍らせると、急いでボロボロになっているウィル君の許へ。 「ウィル君っ!」 「お姉ちゃ……」  ウィル君の目の焦点が合っておらず、全身が緑色に……まさか、毒っ!?  この様子からすると、おそらくもう全身に巡りわたってしまっているだろう。  一部分だけ治しても、毒が血液に乗って全身を駆け巡るので、ウィル君の身体全体を一度に戻す必要がある。  ……だけど、私には身体全体の時間を戻すことは出来ない。  これだけの傷と毒だ。治癒魔法でないと治せないけど、空間転移魔法で家に戻ったとしても、イザベラが居る王宮まで遠すぎるっ!  どうすれば良い? 今の私がウィル君の身体から毒を排出して、全身の怪我を戻すには……あっ! そうか。毒だっ! 「時魔法……時間遡行」  ウィル君の身体全身を元に戻すというのは、今の私には出来ない。  だけど、ウィル君の体内にある毒だけの時間を戻して、元の場所であるこの黒蛇の体内に戻す事は……出来たっ!  ウィル君の肌が、無事いつものウィル君の色に戻った。  だけど、以前として全身を怪我している。  私の魔力だと、時間遡行を使えるのはあと二回が限度だ。 「時魔法……時間遡行」 「アルマ、お姉ちゃん!? ありがとう……もう、大丈夫だよ?」 「喋らないで! まだ一部しか治せていないから」  まずは一番傷が深そうなお腹を治したけど……あと一回しか使えない。  普通に考えれば、頭から流血しているので、頭を直すべきなのだろうけど、傷の深さではお腹に次いで左脚の方が酷いと思う。  よく立てていたなと思える程の傷なので、こっちを戻すべき?  ダメ。両方とも出血が激しい。  片方を戻しても、出血多量で……待って! 毒……出血。もしかしてっ! 「時魔法……時間遡行」  時間を戻す魔法で、私の魔力を数分前の状態に戻す。  そう。私がまだ魔法を使う前の魔力量に戻した。  だから…… 「時魔法……時間遡行」  これに気付いた後は、ウィル君の身体を二か所戻しては、自分の魔力量を戻し、新たに二か所……と繰り返して、無事にウィル君の全身を元に戻す事が出来た。 「ウィル君! ……良かった!」 「お姉ちゃん! ごめんなさい! 強がったけど、本当は凄く苦しくて、痛くて……本当にありがとう!」  ウィル君を抱きしめ、無事を喜ぶ。  こんなところで、しかも一人で魔物と戦っていた理由は後で聞くにしても、今はウィル君が無事に戻ってこれた事を喜びたい。 「アルマ様! ウィリアム様を治癒していただいて……本当にありがとうございます!」 「す……すげぇ! ブラッド・バイパーを一撃で倒して、瀕死の少年を完全回復させるなんて! 聖女……歴代最高の聖女様だっ!」  エミリーさんと門番さんが何やら興奮しているけれど、私がウィル君を戻したのは身体だけだ。  きっと凄く恐怖を感じただろうし、心を癒す為にも、ウィル君を馬車まで連れて行き、まずは家でしっかり休ませる事にした。
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