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挿話5 動き出したトラヴィス王子
「ん? 魔物の頻出による騎士団の派遣要請?」
「はい。第六騎士隊が派遣され、先程戻ってきたようです」
カイルが執務室に入って来たかと思うと、騎士団による魔物討伐依頼の話を報告してきた。
騎士団は兄の管轄なので、僕が把握する必要はない……というか、関与すると面倒な事にすらなり得るのだが、どうしたのだろうか。
それくらい、カイルも知っているだろうに。
「それは……僕が聞いて大丈夫な話なのか?」
「ただの世間話ですからご心配なく。詳細は私も聞いておりません」
「ふむ……」
なんだろうか。カイルは僕の業務を遮って、無意味な世間話をするような者ではないので、何らかの意味があるのだろうが。
「討伐した魔物は、グレート・ウルフやヘル・スパイダーといった、いわゆるA級モンスターと呼ばれる凶悪な魔物ばかりでした」
「随分と凶悪な魔物だな」
「えぇ。ですが第六隊の話によると、それよりも更に凶悪なS級モンスターと呼ばれるブラッド・バイパーがいたそうです」
「なっ!? 災厄級と呼ばれる魔物ではないか!」
魔法が通じぬ皮膚と、体内に入れば半日で死に至ると言われる強力な毒を持つだけでなく、巨大な体躯による生命力と力を持つ魔物だ。
騎士団に拘らない僕ですら知っている。
「騎士団の一隊だけで倒したのか!?」
「いえ、騎士隊が行った時には氷漬けで倒されていたそうです」
「え? どういう事だ? 魔法が効かない魔物だろう?」
「正確には、魔法への耐性が極めて高く、そこいらの宮廷魔道士レベルの生半可な魔法は効かないだけで、理論上は物凄く強い魔法であれば効くそうです」
「……では、そのような強力な魔法を誰が使ったと言うのだ?」
「第六隊が街で聞き込みを行った結果、領主の孫娘が一撃で凍らせたと。同行していた街の衛兵が目の前で見たと証言しております」
……最近、この手の凄い魔法を目の前で見たと言う証言が多過ぎないか?
まぁどれもあの偽聖女に関する話だったが。
「それ程までに強力な魔法を使える者が居るのであれば、是非僕の配下にある宮廷魔道士団に入ってもらいたいものだが、何処の街の話なんだ?」
「……コンラッド卿が治めるムラスゾムの街です」
「なっ!? またあの街なのかっ!?」
「はい。そして先程の衛兵の証言によると、ブラッド・バイパーの毒を受けて瀕死だった少年を、その孫娘が魔法で治癒した聖女だと」
「また聖女の話か……って、待った! コンラッド殿が治める街の孫娘だと!?」
コンラッド殿はイザベラの祖父であり、その孫娘には勿論アルマ嬢も該当する。
「やはり、あの聖女と称されているのはアルマ嬢かっ!」
「……コンラッド卿の孫娘が何人いるかわかりませんし、遠く離れているのでその可能性は低いかと。ただ、その女性を宮廷魔道士団にスカウト出来れば……とは、思っております」
「ここ暫く、アルマ嬢の姿を見かけてすらいないんだ! 実はムラスゾムに居るかもしれないだろう」
そうだ! きっとそうに違いない!
イザベラは準備が……と、家に行っても待たされる事が非常に多いが、その間にお茶を出してくれるのがアルマ嬢だ。
ところが、最近は一切見かける事がなく、おかしいと思っていたのだ。
……そういえば、イザベラの誤解のせいで、アルマ嬢が闇魔法使いなどという誤解が流れたことがあった。
心優しいアルマ嬢は、闇魔法使いだという誤解を受けただけで、聖女であるイザベラの為にと、自ら王都を離れたのかもしれない!
「カイル! ウォレス家へ行くぞ! アルマ嬢が居るかどうか直接確認する」
「……あの、王子。流石に事前のアポなしに行くのは……」
「緊急事態だ! それに、アルマ嬢が居るかどうかを確認するだけだ!」
アルマ嬢が家に居れば、それはそれで話が出来るので良し。
その一方で、アルマ嬢がムラスゾムに居るのであれば、即迎えに行く。
うむ。単純な話だ。いざ、アルマ嬢の許へ!
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