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挿話6 追い掛けるトラヴィス王子
「失礼する。突然の訪問で申し訳ない」
「え!? 近衛騎士のカイル様……という事は、そちらの馬車はトラヴィス王子様!? す、すみません。本日、来られると伺っておらず……」
「いや、少し事情があって事前連絡なしに来ている。トラヴィス王子様が至急の用件でアルマ・ウォレス嬢と話されたいのだが」
「あ、主に確認してまいります! ど、どうか少しお待ちを」
早速ウォレス家へ来たものの、カイルに用件を聞いた門番が大急ぎで屋敷へ走って行き、馬車で待たされる。
普段はアポを取ってから来ていたからか、馬車の中で待たされるというのは初めてだな。
……よく考えたら、いつもアポを取って来ているのに、どうしてイザベラに待たされるのか理解出来ないが。
窓から様子を見ていると、直立不動で待つカイルの許へ先程の門番と、壮年の執事が戻ってきた。
「お、お待たせいたしました。本日、主もイザベラ様も不在でして……言伝をいただけましたら、お伝えさせていただきたく思うのですが」
「……本日、王子はアルマ嬢に用事があると伝えたのだが」
「だ、だから言ったじゃないですか! アルマ様だって!」
なるほど。僕がアルマ嬢に会いに来たと言って訪問するのは初めてだから、門番の聞き間違いと思われたのか。
「では、アルマ嬢はいらっしゃるのだな?」
「い、いえ、それが……」
「何だ?」
「その……アルマ様も不在でございまして」
「ふむ。では、アルマ嬢はいつ戻られるのだ?」
「申し訳ございません。私も知らされていないのです」
カイルを前に、執事が縮こまって頭を下げる。
見たところ、嘘を吐いている訳ではなさそうだ。
「もう一度言いますが、ここに居られるのは第三王子トラヴィス様です。隠し事をするのであれば、相応の……」
「お、お待ちください! 本当に知らないのです! 主が何も言わないあたり、主はアルマ様の居場所を御存知なのかと思いますが、我々には知る必要はないと……」
「本当か?」
「本当ですっ! 王族に嘘など申しませんっ!」
執事が真っ青になっているし、そろそろカイルを止めるか。
カイルを止めるべく、馬車から降りると、執事と門番が跪く。
「と、トラヴィス王子様! 私めは本当に知らないのです! アルマ様の姿がお見えになられなくなってから、馬車の御者たちにも聞いてまわりましたが、アルマ様を何処かへお連れしたという者は一人も居なかったのです!」
「ん!? アルマ嬢は今日居ないという訳ではなく、以前から姿が見えないのか!?」
「は、はい。アルマ様のお姿を見なくなって、もう一月近く経つでしょうか」
「な、何だと!?」
「で、ですが、主はアルマ様の居場所を把握しているようで、捜索などは不要だと。そ、その……主が隣国のオイゲン皇子に手紙を出したという話を聞いており、秘密裏に嫁いだのではないかと」
オイゲン皇子だと!? 年齢が一回り以上違うというのに!?
しかも、秘密裏に嫁ぐなど……貴族の婚姻は全て王宮への報告が義務付けられているというのに、何をしているのだ!
「カイル。オイゲン皇子の許へ行くぞ! 直接確認する!」
「お待ち下さい。流石に王宮へ無断で、しかも他国の皇族と婚姻を結ぶとは考え難いです。おそらくですが、アルマ嬢は父親から悪名高きオイゲン皇子との婚姻の話を出され、逃げ出したのではないかと」
「なるほど……あり得ない話ではないな。しかし、一月近く離れ、かつ父親に居場所を知られていても連れ戻されない場所となると……コンラッド殿か!」
コンラッド殿も孫娘には弱いはず。
もしもアルマ嬢が涙を流して匿って欲しいと言えば、息子の政略結婚から守るだろう。
「むっ!? それでは、コンラッド殿が治めるムラスゾムで度々目撃されている聖女は……やはりアルマ嬢の事かっ!」
「否定は出来ませんね」
「アルマ嬢は傷付き、王都へ戻りたくとも戻れない状況だという事か! カイル! 今すぐムラスゾムへ行く!」
「お待ち下さい。公務が……」
「大臣に任せておけ! 今、アルマ嬢を助けられるのは僕だけなんだっ!」
急いで馬車に乗り込むと、そのままムラスゾムへ出発した。
アルマ嬢よ! 待っていてくれ!
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