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第21話 大人気のアルマ
ウィル君の行方不明事件から数日が経過し、ようやく周囲が落ち着いてきた。
ことの発端は、魔物に怪我を負った人の身体をを私が時魔法で戻し、魔力枯渇を起こした事だ。
これを見たウィル君が、そもそもの原因である魔物を減らそうと考えてくれたようで、近くの森で魔物を倒していたら、まさかの災厄級と呼ばれる魔物に遭遇してしまったという話だった。
ウィル君はお祖父様から物凄く怒られていたけど、街の人の為に行動した訳だから……と、剣の素振り一万回で許されたらしい。
いやまぁ、それもかなり大変そうだったけど。
「では、行ってきまーす」
「アルマよ。気を付けるのだぞ」
研究所へ行くだけだし、馬車で送ってもらうから気を付ける事なんて何もないと思うんだけど。
そう思いながら、エミリーさんと馬車に乗っていると、
「聖女様ーっ!」
馬車の外から変な声が聞こえてくる。
何の事かと窓から外を見てみると、街の子供たちが……というか、街の人みんながこっちを見ながら手を振っていた。
いや、聖女はイザベラであって、私ではないんだけど。
とはいえ、無視する訳にもいかず、子供に手を振る。
「エミリーさん。どうして街の人たちがこちらに向かって、聖女って言っているのでしょうか?」
「以前から言われていましたよ? あと、今回は災厄級の魔物を倒した上に、噂好きで有名なサムの目の前で奇跡を起こしていますからね。数日掛けて、街中に広まりました。もうこの町でアルマ様の事を知らぬ者は居ないかと」
サムって……あの門番さんの事なのね。
うーん。これはどうしたものか。
とはいえ、今更どうしようもないので、いつもの通り研究所へ。
「おはようございます。ケヴィンさん、今日も魔石を使わせてもらいますね」
「えぇ、どうぞ。ちなみに、次は何を作られるのですか?」
「まだ実現方法を考えている段階なんですけど、街に魔物が近寄らないように出来ないかなと思いまして」
「でも、つい最近王都から来た騎士団が周辺の魔物を退治してくれましたよ?」
「ですが、全く居なくなった訳ではないので。より安全に、安心して暮らせる街にしたいなと」
そんな話をしながら、どんな魔法が適しているのかを考える。
一番良いのは魔物が嫌う、聖なる力……光魔法だと思うんだけど、使えない魔法の事を考えても仕方がない。
……そうだ! 魔物が嫌う香りを出すというのはどうかな?
植物の中には、特殊な香りを出して、魔物から身を守るものがあると、何かで読んだ気がする。
「よし。ちょっと本屋さんへ行ってきますね」
「あ、待って下さい! アルマ様がお一人で外へ出るのは危険ですし、領主様に絶対怒られます!」
「え? 街を歩くくらい大丈夫で……あー、ダメかも?」
今朝の事を思い出し、一人で出歩くのは良くなさそうな気がして、一旦思い留まる。
けど、思い付いたアイディアは早めに実験してみたいなー。
「……姿を消す魔法なんて無いかな?」
「アルマ様。それは闇魔法ですね」
「じゃあ、ダメね。それなら、気配を消したり、気付かれ難くするのも……」
「それも闇魔法ではないですか?」
「いっそ変装するとか!」
「まぁそれならまだ……」
という訳で、ケヴィンさんにも手伝ってもらい、研究所にあるものを使って変装する事にした。
先ずは、似た背丈の女性所員さんに、予備の作業用ローブを貸してもらう。
それから、何かカッコ良いから……というだけでオブジェとして飾られている、魔法使いっぽい杖も持ってみた。
あと眼鏡を借りて、ローブのフードをまぶかに被れば……何か怪しい魔法使いになれたんじゃない?
「ケヴィンさん! どうですか? 謎の魔法使いっぽいですよね?」
「まぁ……そうですね。声が完全にアルマ様ですが」
「それは、いつも私の声を聞いているケヴィンさんだから分かる訳であって、きっと街の人は分からないですよ」
「そう言われてみれば確かに。けど、念の為に誰かと一緒に……」
「大丈夫ですって。これ以上、皆さんのお仕事の邪魔をしちゃ悪いですし、行ってきまーす!」
「えぇっ!? アルマ様っ!?」
何気に、こういうローブを着るのは初めてなので、ちょっと楽しい。
変装なんてするのは初めてだしね。
そんな事を考えながら街に向かってあるいていると、時々気分転換で来るカフェが見えてきた。
店員さんとは何度も会話しているし、昨日もここでお茶を飲んでいる。
「こんにちはー!」
「はい、こんにちは。ご注文でしょうか?」
「いえ、ちょっと話してみたかっただけです」
「は、はぁ……ではまたお越しください」
「はいっ!」
やった! 今のは絶対に私だってバレていない。
まぁフードを被っている上に、レンズ無しの眼鏡もあるし……行ける!
このまま本屋さんまで、行っちゃおー!
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