第22話 遭遇してしまったアルマ

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第22話 遭遇してしまったアルマ

「すみません。ハンカチを落としましたよー!」 「ん? あっ! ありがとうございます」  ふふふ。またもや私だと気付かれなかった。  変装……楽しい!  そんな事を考えている内に、本屋さんへ到着したので、植物辞典を探す。  うーん……本を探すのにフードが邪魔だ。  ここまで平気だったし、取っても大丈夫だよね?  誰に聞く訳でもないけどフードをめくり、目的の本を探し……見つけた!  植物辞典を手に取り、すぐにお会計を済ます。 「……あんまり見ない顔ですが、最近来られたんですか?」 「そうですね。一月程前から、この街へ来ています」 「そうなんですねー。可愛らしい魔法使いさん。またご贔屓にして下さいね」  ん? あっ! フードを外したままだ!  けど、この本屋さんの店員さんとは何度か話した事があるのに大丈夫だった!  もしかして、眼鏡だけでも大丈夫だった?  そんな事を考えつつ、買った本を手にお店を出ると、見覚えのある豪華な馬車が屋敷の方から走ってくる。  白を基調とした四頭立ての大きな馬車には、ドラゴンをモチーフにした紋章が描かれていた。 「……って、王宮の馬車!? どうしてこんな所に!?」  そう思いながら眺めていると、窓の中に男性の姿が……って、トラヴィス王子!?  どうして!? つい最近来たばかりよねっ!?  ひとまず、大慌てでフードを被り……って、そうだった。  今の私は変装しているんだ。  街の人たちですら私だって気付かなかったのに、数回しか話した事がないトラヴィス王子が私の事に気付く訳がない。  という訳で、隠れたりせず普通に研究所へ帰る事にした。 「あっ! あのお店……そうだ。ウィル君にお土産を買って帰ろうかな」  マドレーヌが美味しいお菓子屋さんへ行き、持ち帰り用の出窓から店員さんに声を掛ける。 「すみません。マドレーヌを四つお願いしまーす!」  お店の中からら焼き菓子の美味しそうな事香りが漂ってくると、幼いウィル君がマドレーヌを落としてしまい、私の分を二人で食べた記憶が蘇ってきた。  そうだりチーズケーキも絶品だったよね……と、想い出に浸っていて気付くのが遅れた。  何だか凄く視線を感じる。  それも、すぐ近くから。  何気なく横を向くと、目の前にトラヴィス王子がいた。 「ふぇっ!?」 「その声……やはり、アルマ嬢では!?」 「えっ!? えっと……」 「うむ。その驚いた時の仕草や、綺麗な鈴の音のような声に、白く小さな手。僕だ。第三王子のトラヴィスだ」  いや、改めて名乗られなくても勿論分かりますけど……どうして私の変装がバレたの!?  今もフードを被ったままなのに、私だって確信を持って話し掛けてくるし。  もしかして……闇魔法使いはどこまで逃げても、必ず捕らえるぞって事!? 「王子。そちらの女性が困っておられます」 「す、すまない。カイルのいう通りだな。僕とした事が、不躾だった。ただ、ずっと探していた君にようやく巡り会えたのが嬉しかったんだ」  や、やっぱり! 闇魔法使い疑惑が晴れていなくて、ずっと捜索されていたんだ!  ど、どうしよう! 「困惑させてしまってすまない。僕は、失意の中にいる君を助けたいんだ」  それなら私の事を忘れ、回れ右で馬車に乗っていただくのが一番有り難いんですけど! 「王子。もうそれくらいで……」 「そうだな……アルマ嬢。僕は君を助けたいと思っているんだ。それだけはわかって欲しい。それでは、また後日に」  一緒にいた近衛騎士のカイル様のおかげで、トラヴィス王子が馬車へ戻り、何とか事無きを得た。  しかしカイル様は、王子がイザベラへ会いに来る時でも冷たくて厳しいイメージだったのに、私を助けてくれたのはどういう風の吹き回しだろうか。  それに、トラヴィス王子が私を助けたいというのは、どういう事なのだろう。  訳が分からないまま、研究所へ戻って借りたものを返し、早速買った植物辞典を読み……うん。あまり頭に入らなかった。  やっぱり、逃げた方が良いのかどうかを考えながらだと、考えが纏まらない。  魔物避けを作る為にも、先にトラヴィス王子の件を何とかしなければと考えながら家に帰ると、お爺様に出迎えられた。 「アルマよ。今日、トラヴィス王子が来られてだな……」 「はい。街で遭遇しました」 「そうか。いや、どうしたものかと思いつつも、ワシが勝手に判断する訳にもいかず、ひとまずアルマの部屋に運んでおいたのだが……」  何の話だろう?  そう思いながら自室へ戻ると、テーブルの上に沢山の装飾品が置いてある。 「あの、アルマ様。トラヴィス王子様からの贈り物だそうです」 「えぇ……」 「ちなみに、クローゼットの中にも、凄いドレスが沢山入っています」  うわぁ……イザベラなら、こういうのを喜びそうだけど、私はちょっと違うかな。  あっ! 待って! まさかこれって……この装飾品やドレスを売って、逃亡資金に充てろって事なの!?  王子の言う私を助けるって、そういう意味かぁー!
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