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第3話 空間転移魔法
「……という訳で、この度のアルマ様の闇魔法疑惑は完全に誤りでした。誠に申し訳ございません」
騎士さんに家まで送ってもらい、父に事情を説明してもらった。
父は胸を撫で下ろしているけど……うん。やっぱりダメだ。
家の中や身内に納得してもらえても、イザベラは国民を守る聖女であり、トラヴィス王子の婚約者でもある。
疑わしいとされた者が近くにいるだけでも、聖女の活動に支障が出てしまうかもしれない。
「お父様。騎士団で確認してもらい、私が闇魔法を使わないし、使えない事は証明されました。しかしながら、私は家を出ようと思います」
「な、何故だっ!? 疑いは晴れたのだろう!?」
「ですが、誰かに……それも、騎士団を容易に動かす程のお方に疑いを向けられたのも事実です。おそらく、聖女に選ばれたイザベラの足を引っ張ろうとする者がいるのかと」
「なるほど。だが、だからと言って……」
「いえ。イザベラはこれから、結界を張って魔物から街を守ったり、治癒魔法で怪我人を治したりという聖女の務めに加えて、トラヴィス王子の婚約者として、公務もこなさなければならないでしょう。余計な事で心労を与えない為にも、私は離れるべきかと」
「アルマ……」
父上が悲しそうにしているけれど、二度と会えないという訳ではない。
それに、元より私は魔法の研究に打ち込みたかったので、家を離れる事で社交界から遠ざかれる。
今まで毎月のお茶会や、その為のマナーや話題の勉強で、かなりの時間を無駄にしてきた。
その時間を魔法の研究に充てられるし、私としてもメリットがある。
だから、全く気にする必要はないんだけど……何やら父が張り切り出した。
「わかった! アルマがそこまでイザベラの事を考えてくれているのであれば、私も最大限の支援を行おう! 隣国に使いを出し、皇子の婚約者にしてもらおう。それから、持参金に……」
あ、これは面倒なやつだ。
社交界から遠ざかって、のんびり好きな事をやりたいのに、どうして別の国の皇子様の許へ行かないといけないのよ。
「えっと……お父様。私は読み掛けの本だけいただければ、それで構いませんが」
「本など幾らでも持って行くが良い。それよりも、ドレスと装飾品だ! 明日の朝、すぐに商会を呼びつけよう!」
……うん。わかった。
今日中に家を出よう。
という訳で、許可ももらったので、まずは地下の書庫へ行くと、
「時魔法……異空間収納」
割と最近使えるようになった時魔法を使い、魔道書を端から順に収納していく。
といっても、闇魔法に関する本は置いていくけど。
ここから闇魔法の本を持ち出したから、やっぱり闇魔法使いだ! ……なんて言われても困るからね。
次は自室へ行き、衣服やお気に入りの小物に、これまでの研究成果を全て収納していく。
出し入れに魔力を要するのが難点だけど、幾らでも収納出来るのは凄く楽ね。
あと、ドレスから普段着に……山へ魔法の媒体や実験材料を収集する時の服に着替える。
「時魔法……空間転移」
思い描いた場所と空間を繋ぎ……視界が見慣れた自室から、一瞬で懐かしい小部屋に変わった。
「うん。成功ね」
とりあえず、お世話になるし挨拶だけ済ませておこうと思ったんだけど……家を出る準備に時間がかかり、既に日付が変わっている。
「……起こすのも悪いし、今日はこの部屋で休ませてもらって、明日の朝に挨拶と説明にしよう」
という訳で、部屋の隅に置かれている、少し小さなベッドの状態を確認し……うん。ちゃんと掃除されているみたいなので、そのまま使わせてもらう事にした。
このベッドを使うのも久しぶりで……あれ? 何か変な感触がする?
けど、いつも眠る時間からかなり遅いのと、魔力消費が激しい空間転移魔法を使って疲労していたので、そのまま眠りに落ちてしまった。
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