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挿話8 再会するトラヴィス王子
「王子。では、王都へ戻りましょう」
アルマ嬢本人には会えなかったが、当初の目的である贈り物をコンラッド殿に渡す事が出来た。
これでアルマ城の悲しみが少しでも癒えれば良いのだが。
そんな事を考えつつ、馬車から何気なく外を見ていると、フードを目深に被った女性がいた。
「カイル! あの女性を見てくれ! あの背丈と体格、少し見えている絹のような金髪は……アルマ嬢ではないだろうか」
「……王子。アルマ嬢は、あのような格好で出歩かないかと」
「だが、アルマ嬢は今、聖女と呼ばれているのだろう? だがイザベラの事を考えれば、聖女とは呼ばれたくはないはず。だから、顔が見えないようにしているに違いない!」
うむ。我ながら見事な推理だ。
……何故かカイルは腑に落ちないといった表情を浮かべているが。
「むっ! 馬車を止めてくれ!」
「な、何事ですか!? 王子」
「アルマ嬢が、あの店で何か注文しようとしている! 商品待つ間くらいなら、話し掛けても問題ないだろう」
「いや、おやめになった方が……王子!? お待ち下さい、王子!」
居ても立っても居られずに馬車を降りると……可愛らしい声が聴こえてきた。
心地よい声色で、耳を癒す……この声こそ、僕が求めていたアルマ嬢の声だ!
「その声……アルマ嬢では!?」
「えっ!?」
「僕だ。第三王子のトラヴィスだ」
アルマ嬢ともっと会話したいが、カイルから何度も止められ、なくなく王都へ帰還する事に。
とはいえ、突然の事だったし、アルマ嬢に立ち話をさせてしまうのは申し訳ないので、今日はここまでとした。
実際にアルマ嬢に会えたし、次は正式な席を設けてもらう訳だから、焦らなくても良いだろう。
「……王子。先程の女性は本当にアルマ嬢なのでしょうか」
「勿論だ。僕がアルマ嬢の事を間違える訳がないだろう?」
「しかし、女性側は一度もアルマ嬢だと肯定しておりませんでしたが」
「街中だったからではないか? まぁ次に会う時にはっきりするだろう」
カイルとそんな話をしながら王都へ戻ると、早速商人を呼んでもらう。
到着するまでに、溜まっている書類の山を減らそうかと思ったのだが、以前に商人が来た時に置いていった品目一覧の事を思いだした。
「確か……これか」
自室で品目一覧に目を通していると、ノックと共にイザベラが入ってきた。
「あら、トラヴィス様ぁ。もしかして私に何か買ってくださるのー?」
「いや、すまない。これは別の者に贈るんだ」
「……は? どういう事!? 王子には聖女である私がいるのに?」
しまった。僕の言葉で、ニコニコしていたイザベラの目が一気に吊り上がる。
イザベラの機嫌を損ねると、非常に面倒な事になってしまう。
何とか取り繕わないと。
「はっはっは。贈り物と言っても、イザベラが気にするような話相手ではないよ。隣国のシャルロット皇女への外交上の贈り物だからね」
「……そういう事でしたのね。でも、シャルロット皇女はまだ十歳ですよぉ? 今ご覧になられている物は、少々早過ぎないかしらぁ」
「十歳でも女性には違いないからな。装飾品を嫌う事はないだろう」
「そうね……けど、トラヴィス様が私の好みと一致するものばかり見ているんだもん。妬いちゃうわぁ」
「は、ははは。また今度何か買ってあげよう」
よ、よし。何とか誤魔化せたようだ。
どういう訳かは分からないが、イザベラは未だにアルマ嬢の事を「闇魔法使いだから逃げたんだ! 探して調査をやり直せ!」……と言ってくる。
騎士団も呆れて相手にしていないが、イザベラは聖女なので無視も出来ず、何とかして欲しいという嘆願が来る程だ。
もしかしたら、アルマ嬢がコンラッド殿の所へ行ったのも、このイザベラの根拠のない主張が一端を担っているのかもしれないな。
しかし、それにしても、アルマ嬢とイザベラは実の姉妹なので、趣味趣向や価値観が似ているはず……というのがカイルの意見だった。
だが、あの姉妹は不思議なくらいに、容姿以外が似ていないのは何故なのだろうか。
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