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第23話 逃げられないアルマ
「エミリーさん。この装飾品やドレスなどを買い取ってくれそうなお店って……」
「えっ!? 王子様からの贈り物ですよ!? それを売ってしまうのはマズい気がするのですが……」
「ん? これを売って逃げなさい……という意味では?」
「違うと思いますが。それに、本当に売って資金にするように……という事なら、そんな面倒な事をせずに、そのまま資金を渡すと思いますが」
言われてみればその通りだけど、現金だと王宮内でいろいろと面倒な事になるから、贈答品という形式にしたんじゃないのかな?
トラヴィス王子は真面目なので、そういった事をするイメージがないけど、カイル様がアドバイスしていそうな気がする。
「んー、アルマ様の気を引きたいけど、どんなものが好みか分からず、とりあえず色々送った……とか?」
「それは無いと思いますよ? トラヴィス王子にはイザベラが……妹が六歳の頃から婚約者ですし」
「それです! イザベラ様が六歳という事は、王子様は十二歳です。当時はよく分かっていなかったけど、今になってアルマ様の魅力に気付いた……とか?」
「それこそ無いと思いますけど」
私は社交界に最低限しか出ていないし、王子との接点が殆どないもん。
ただ、十二歳というと……今のウィル君かぁ。
確かに恋愛とかはまだ早い気がする。というか、可愛い弟みたいな存在でいて欲しいけど、実は学校に好きな女の子が居たりするのだろうか。
それは、姉としてちょっと聞いてみたい。
でも、普通に聞いても教えてくれなさそうだよね。
とりあえず、トラヴィス王子からの贈り物の意図をお爺様に聞いてみようとなり、食堂へ向かっていると、ちょうどウィル君が帰ってきた所だった。
あ、そうだ。せっかくだし、さっき思った事を聞いてみようかな。
「ただいま戻りました」
「ウィル君、おかえりー! 一緒にお風呂へ入ろー!」
「お姉ちゃん、ただい……っ!? な、な、何を言っているのっ!?」
「え? 私もさっき帰ってきた所だし、一緒にお風呂へ入ろうって……」
「入れる訳ないよーっ!」
あれ? ウィル君が耳まで真っ赤にして怒り出し、自室に向かってしまった。
前はいつも一緒に入っていたのに、どうしたんだろ?
お風呂でならリラックスして、いろいろ話してくれるかなって思ったのに。
何故か怒られてしまったので、後でウィル君へ謝りに行こうと思いつつ、お爺様の許へ。
「お爺様。トラヴィス王子から贈られたという、あの装飾品の山はなんなのでしょうか?」
「いや、ワシにも分からんのだ。王子はアルマの支援だと言っていたが」
「じゃあ、やっぱりあれを売って逃亡資金にしろって意味ですよね?」
「いや、逃亡というのは違うようだ。後日、トラヴィス王子が正式にアルマへ会いに来ると仰った。詳しくはそこでわかるのかもしれん」
えぇ……これって事前告知よね?
いざ、王子が来た時に私が何処かへ逃げて居なければ、お爺様が罰せられてしまう。
という事は、お爺様の仰る通りで、逃亡を支援するという訳ではないみたい。
じゃあ、何の支援なの?
「あっ! もしかして……街の人たちがもっと暮らしやすくする為の研究支援なのかも!」
「あぁ、なるほど。確かに、王子から最近のアルマの様子を聞かれ、魔法の研究をしていると答えた後に、この贈り物の話になったな」
「では、やっぱりお金に替えて良いって事よね。トラヴィス王子、流石ね。国民の事をちゃんと考えてくれているみたいだし」
私の勝手な先入観で申し訳ないんだけど、王族や貴族の方って、自分の資産を増やす事に情熱を注いでいる人が多い気がする。
それが全てダメだと言うつもりはないけれど、ノブレス・オブリージュ……社会を良くする務めは果たさなければ。
「では、早速商人を呼ぼう。アルマは魔石が必要なのだな?」
「はい。出来れば数よりも、大きな魔石の方がありがたいです。拳大の小さな魔石だと、すぐに限界に達して割れてしまうので」
「……拳大の魔石はそれなりに大きい部類に入るのだが、あれが割れるのか!?」
「え? 少し魔力を込めたら割れますよ?」
「…………いや、うん。出来るだけ大きい魔石を持って来させよう」
これで、王子が私を探していた理由は、闇魔法使いの疑いではなく、研究援助の為だと分かった。
悩みの種が解消されたので、研究所では頭に入らなかった植物辞典も、今では面白いくらいに読む事ができ……うん、これだ! 明日、早速実験してみよう!
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