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第25話 困るアルマ
魔物避けの魔石を設置して、あっという間に九日が過ぎた。
トラヴィス王子との会食は明日だというのに、ちょっと困った事になっている。
「聖女様! うちの畑にも、魔物が来なくなる魔道具をお願い致します!」
「聖女様! 馬車に……馬車にお願い出来ませんか!? 街から街への移動が、より安全になります!」
「聖女様! でしたら、牧草地にも! 馬が……馬が襲われるんです!」
魔物避けの魔石の話を聞いた街の人たちが、お爺様の家の前で陳述するようになってしまった。
それだけ大勢の人たちが魔物による被害で苦しんでいる事はわかったけど、まだ実験が終わっていないのよ!
というのも、魔石を設置した場所には、確かに魔物が来ていない。
だけど、それが魔石による効果なのか、それとも偶然なのか判断出来ていない状態なので、これは実験方法がマズかったと思う。
今からでも森に行って、魔物が逃げて行くか確認したいんだけど、お爺様が手を回したのか、私が一人だと街の門を通してくれない。
時魔法で移動するには、長く過ごした場所で鮮明にイメージ出来る場所じゃないとダメだし……困ったわね。
「みなさんのご意見はわかりました。ですが、材料に限りがあるので、今すぐ全員にという訳にはいかないんです」
「でも、うちの隣の畑は……」
「はい。今は、一部の箇所で魔道具の実験に協力いただいています。実験が終わり、材料が集まりましたら、みなさんに希望いただいた箇所にも設置出来ると思います」
現状について正直に話すと、街の人たちも理解してくれたのか、ひとまず引き下がってくれた。
だけど、切実な感じがしたし、早く何とかしてあげたいとは思う。
「……そうだ! 私一人だとダメだから、誰かについて来てもらおう」
今日は週末だし、ウィル君がいるので、一緒について来てもらったんだけど……何故か門で止められてしまった。
「何故でしょうか。今日は私だけではありませんよ?」
「ダメです。マルマ様とウィリアム様のお二人でもダメだと、領主様から強く言われています」
「では、どうすれば……」
「魔物に遭遇しても、お二人を確実に守れるという護衛がいない限り、門を通すなと言われています。そしてアルマ様がどのような方法にせよ、条件を満たさず魔物に遭遇した事が領主様に発覚した場合、我々門番全員がクビになります」
えぇーっ!? お爺様……それって流石に酷くない!?
私が街の外へ出るのと、門番さんが職を失うのは関係ないでしょ!
「……ケヴィンさんと一緒なら良いんですよね?」
「はい。獣人族のケヴィンさんは、体術に長けておられますので。ただ、アルマ様とウィリアム様のお二人でしたら、当然護衛も最低二名は必要です」
うーん。ケヴィンさんは畑までは許してくれるけど、森に行くのは許可してくれない。
けど、それだと実験にならないんだよね。
この街で、他に魔物を倒せそうな人は……そうだ!
「ウィル君。少しだけ付き合って」
「うん、もちろん! アルマお姉ちゃんとなら、どこへでも付き合うし、その、違う意味でも……」
「ウィル君、こっちこっちー!」
一旦、門から出る事を断念して、目当ての人が居るはずの場所へ。
受付で話をして中へ通してもらうと……居た!
「キャロルさん。私の護衛として一緒に森へ行ってくれませんか?」
「アルマ様の護衛!? む、無理ですっ! 私はブラッド・バイパーとなんて戦えませんよっ!」
「え? 大丈夫ですよ。そんなに凄い魔物はいませんし。前も、ちょっと大きな蛇さんが現れただけです」
「ブラッド・バイパーは災厄級の魔物ですよぉぉぉっ!」
魔法学校の学長であるキャロルさんなら問題ないだろうと思って声を掛けたんだけど、残念ながら断られてしまった。
こうなっては、もうこの街ではツテがないので、諦めて現状の実験結果が出るのを待ちつつ、新たな魔石の使い方を考えていると、あっという間に時間が過ぎてしまい……トラヴィス王子がやってくる日となった。
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