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挿話9 ライバルに囲まれるトラヴィス王子
アルマ嬢と街へ行くつもりが、ウィルという少年も同行する事になった。
聞けば、この少年もコンラッド殿の孫で、アルマ嬢の従姉弟にあたるらしい。
だが、わかる……わかるぞ。
先程の女神のような微笑みのアルマ嬢を見れば、虜になってしまうのは仕方がない。
君もアルマ嬢と一緒にいたいのだろう。
「トラヴィス王子。イザベラ嬢ほど露骨ではありませんが、やはり姉妹。アルマ嬢も装飾品に目がなかったようですね」
「あぁ、カイルの進言のおかげだ。ありがとう。アルマ嬢の笑顔を見られて満足だ」
「ただ、お気を付けください。イザベラ嬢のように、今後際限なくねだってくるかもしれません」
アルマ嬢はそのような女性ではないと思うが……と来たな。
随分と庶民的な格好だが、何処へ行くのだろうか……はっ! そうか! 僕が王族と一目でわかる格好だから、街の者にアルマ嬢だとわからぬようにしているのか。
僕としては、アルマ嬢を気分転換に誘いたかっただけなのだが、傷心中で目立ちたくないハズなのに、配慮が足りなかったようだ。
「トラヴィス王子様。では最初の目的地に向かって参りましょう!」
アルマ嬢から目的地を聞いたウィルが御者に何かを告げ、馬車が走り出す。
僕の対面にアルマ嬢が座り、その横にウィルが。そして僕の隣にカイルが座っている。
これなら何の不自然さもなく、アルマ嬢の美しい容姿を見ていられるので、良い席だと思っていると、
「お姉ちゃん、アレ見てー!」
「ん? どうしたのー?」
「雲がウサギみたいな形なんだよー」
「本当だ。可愛いわねー」
ウィルが窓の外を指さし、アルマ嬢が素直に覗き込む。
その間ウィルはというと、アルマ嬢に密着した上に、
「ふふん」
何やら勝ち誇ったような表情を浮かべてきた。
……いや、相手は子供だ。き、気にする方がおかしいというものだ。
「……王子。馬車が壊れます」
カイルに小声で言われて気付いたが、無意識のうちに座席の肘掛けを強く握りしめていた。
小さく深呼吸して、アルマ嬢と目が合うと……うむ。流石は癒しの女神だ。心が落ち着き、平常心になれた。
少しすると、街の大通りで馬車が止まる。
どうやら、最初の目的地は焼き菓子の店のようだ。
「私もウィル君も、昔からこのお菓子が好きなんですよ」
そう言って、アルマ嬢が美味しそうに焼き菓子を食べる。
取り立てて珍しいものではないが、宮廷の料理人が作る菓子と遜色がない美味しさだ。
イザベラはありとあらゆる菓子をマズいと言って殆ど食べないが、アルマ嬢は違うらしい。
装飾品に喜ぶのは同じだが、味覚は姉妹で異なるようだ。
「うむ。焼き加減が絶妙なのだろうな。ふんわりとしているのにサクッとして、とても美味しい逸品だ」
「トラヴィス王子様。こちらのお飲み物をどうぞ」
「ありがとう……んっ!?」
アルマ嬢が手渡してくれた紅茶が、冷たくて飲みやすい!?
だが氷は入っておらず、味が薄くなっていないのは、何故なんだ?
「ここの店主は料理の腕だけでなく、氷魔法まで使えるのか?」
「いえ、そうではないんです」
「ふむ。しかし氷を入れていないのに、飲み物が冷たいというのは、直前まで氷魔法で冷やしていたのかと思ったのだが」
「こちらは、弱い氷魔法を込めた魔石を使って、冷やしているんです」
「ま、魔石!? この普通の菓子の店で!?」
魔石自体は超高級という訳ではないが、魔力を込めすぎると簡単に割れてしまう為、魔法の付与が成功した魔石は、小さなものでも非常に高額となる。
王宮にも少しあるものの、それが失礼ながら小さな菓子店にあるとは。
「この街では、このお店に限ったものではなく、大半の飲食店に普及しているんですよ」
「そ、そうなのか」
「はい。それでは次に参りましょう」
飲食店に普及していると言うが、この大通りだけでも、飲食店は軽く数十店はありそうなのだが。
それから、再び馬車が走り出し、街外れの大きな工房で馬車が止まった。
「ステリー魔道具工房?」
「はい。私の知り合いの工房なんです。クライヴくーん!」
アルマ嬢に呼ばれ、十代後半に見える正装の青年が現れた。
これは……アルマ嬢が来る事がわかっていたから、その格好なのか!?
つまり、この青年もアルマ嬢を狙っている!?
「急にごめんね。お願いしていたのって、どうかな?」
「アルマ師匠。本当に急過ぎて、まだ試作品しか出来ていませんよ」
「あはは。いやー、今朝起きた時に暑くてね。それで閃いたものだから」
という事は、今朝アルマ嬢がこのクライヴという青年に会っていた!?
何か親しいようにも見えるし、アルマ嬢の事を師匠と呼んでいたが……どういう関係なんだ!?
そんな事を考えていると、クライヴが何かを手に近付いてきた。
「トラヴィス王子様。師匠……いえ、アルマ様から依頼されてご用意した魔道具です。どうぞ」
四角い箱が手渡されたが、これは何なんだ?
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