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挿話10 理解に苦しむトラヴィス王子
「これは……何だ? 中に入っているのは……魔石か!?」
「はい。アルマ様が氷魔法と風魔法を込めた、魔石です」
「二種類の魔法を魔石に!? な、何という……」
一つの魔法を魔石に込めるだけでも、魔石の限界を見定めながらの慎重な作業を必要とするというのに、二種類の魔法を込めるだなんて。
この魔石を一つ成功させるのに、割れた魔石の数は十や二十では効かないはずだ。
下手をすれば、小さな領地が買える程の金額ではないだろうか。
「トラヴィス王子様。そちらの青いボタンを押してください」
「ふむ……おぉ、涼しいな」
「はい。先程申し上げた魔石から、常時冷風が流れています。青いボタンを押す事で、その冷風が手前に流れます。では、もう一つの赤いボタンを押してください」
クライヴに言われた通り赤いボタンを押すと、開いていた手前の穴が閉じ、反対側が開いた。
「なるほど。魔石は込められた魔法を常時使用し続け、止める事が出来ない。だから、代わりに入れ物である箱を開閉するようにしたという訳か」
「その通りです。暑い夏は青いボタンを押して冷風を室内に入れ、冬などの不要な時は赤いボタンを押せば、冷風は室内に入らず、室外に出る……という仕組みにしようと考えております」
「ふむ。それは凄いな。夏の謁見の間に欲しいくらいだ」
「そちらは試作品ですが、トラヴィス王子様へお納め致します。いずれきちんとした製品……魔道具に仕上げますので、その際に交換させていただきます」
ん? この高価な魔石を献上するというのか!?
中の魔石だけで、この工房が丸々一つ買えるくらいの品物だぞ!?
「……ま、魔石が入っているというのに、そんなに易々と渡して良い物なのか!?」
「魔石はアルマ様からいただいた物で、我々は外側の箱しか作っておりませんので何の問題もありません」
え? これ程の魔石をアルマ嬢から貰ったというが、コンラッド殿はアルマ嬢にこの魔石の価値を正しく教えているのだろうか。
だが、そんな僕の心配を他所に、アルマ嬢はそんなのお構いなしと言った様子で、上目遣いで微笑みかけてくる。
「トラヴィス王子様。例の贈り物のお返しです。ですので、気になさらないでください」
「な……え!?」
例の贈り物とは、あの装飾品の事だと思われるが、この魔石一つであのような装飾品は店ごと買えるのだが。
茫然としている内に、アルマ嬢がクライヴに礼を言って、次の場所へ向かうと言う。
それより、今アルマ嬢とクライヴが、量産化……という話をしていたが、このような魔石が幾つもあるというのか!?
「トラヴィス王子様。次は私が一番行きたかった場所なんです!」
「おぉ、そうなのか。そこへ僕を連れて行ってくれるというのは、非常に嬉しいよ」
「私も嬉しいです。トラヴィス王子様と一緒でないとダメですから」
アルマ嬢が僕を必要とし、一緒に行って欲しいと。
任せてくれたまえ。アルマ嬢が必要とするならば、僕は例え火の中、水の中……どこへでもアルマ嬢と一緒に行こう。
だから、もっと頼って欲しい。貴女の心が癒えるように。
いつも精神的に疲れている僕を癒してくれたのは、アルマ嬢の笑顔だからな。
「トラヴィス王子様と近衛騎士のカイル様もご一緒なのですね……わかりました。どうぞ」
「サムさん、ありがとうございます」
ふむ。アルマ嬢は門番の名前まで知っているのか。
きっと街の人々から好かれているのだろう。
しかし、街の外へ出たが……どこへ行くのだろうか。
アルマ嬢の事だから、綺麗な湖とか、花畑とか……きっとメルヘンチックな場所なのだろう。
「トラヴィス王子様。着きました。ここからは少し歩きますが、ご容赦ください」
「いや、構わないが……森の中に入るのか?」
「はい。トラヴィス王子様からいただいた贈り物で、街の人たちの期待が一番高いものです」
……んん? 僕の贈り物はあくまでアルマ嬢に喜んでもらう為に贈った品物だ。
だが、何か少しニュアンスが違わないだろうか。
どうして、アルマ嬢への贈り物が、街の人々の期待になるんだ?
分からない事だらけだと思いつつも、アルマ嬢について行くと、突然カイルが前に出る。
「王子! アルマ嬢! S級にランク付けされる、凶悪なフォレスト・ウルフですっ! 下がってください!」
「なるほど。狼さんには効かないと……ごめんね。ありがとう。氷魔法……絶対零度」
カイルが剣を構え、アルマ嬢を守ろうとした時には、巨大な狼が氷漬けになっていた。
いや、今の魔法……宮廷魔道士でも、使える者が一人か二人しかいないはずなんだが、それを無詠唱で発動させたのか!?
「すみません。まだ実験中ではあるんですけど、トラヴィス王子様にいただいたご支援で、魔物避けの魔石を作ったんです。折角ですので、このままもう少し実験を続けますので、お付き合い願います」
魔物避けの魔石? S級の魔物が現れる森で実験!?
アルマ嬢!? ちょっと説明を……アルマ嬢!? 頼むから、嬉しそうに危険な場所へ進んでいかないでくれっ!
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