第27話 魔物避け魔法の実験

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第27話 魔物避け魔法の実験

 トラヴィス王子とカイル様のおかげで、ようやく森へ来る事が出来た。  流石に、人体には無影響とはいえ、草の香りを放ちながらトラヴィス王子と街を巡る事は出来ず、今回は魔石を持って来ていない。  その代わりに、私が魔石の代わりとなって、草魔法と風魔法を同時に発動させ続ける。  あ……これだと、草魔法の強さを自在に変えられるから、実験にはピッタリね。 「アルマ嬢。僕やカイルがいるとはいえ、森の中は少し危なくないだろうか」 「ご心配なく。先程お話しした、魔物避けの魔石……今は魔石ではありませんが、同等の効力を発揮しておりますので、大量の魔物が寄って来る事はないはずです」 「……アルマ嬢。その魔物避けの魔石というのは?」 「あれ? お爺様から聞いておられませんか? トラヴィス王子様のご支援で、街の人々の為に作った魔石の話って」  トラヴィス王子に聞いてみたけれど、お爺様からは聞いていないようで、カイル様と顔を見合わせ、二人で首を振っている。 「では、簡単にご説明いたしますね。まず魔物が忌避する香りを草魔法で再現し……」 「ま、待って欲しい。アルマ嬢。魔物避けの仕組みの話ではなく、僕の支援というのは何の事だろうか?」 「え? 私に装飾品を沢山贈ってくださいましたよね?」 「あぁ、それは贈ったし、今日も持ってきた」 「はい。あれは、直接資金を渡してしまうと、国の法などに抵触してしまうため、贈り物という形で装飾品を送り、それを金銭に変えて魔石を買え……という意味ですよね?」  公の場ではいろいろと言えない為、お爺様と共にトラヴィス王子様の意図を解釈した結果を伝えると……何故かトラヴィス王子が笑い出す。 「はっはっは。なるほど、そうきたか。いや、アルマ嬢。君は本当に最高だよ。君こそ、聖女に相応しいのではないだろうか」 「えっ!? ダメですよ。聖女はイザベラです。私は光魔法を使う事が出来ませんし、こうして得意の魔法を人々の役に立てる事しか出来ませんから」 「いや、その人々の為に動ける事が聖女に求められる資質だよ。イザベラは……いや、ここでは止めておこうか」  なんだろう?  トラヴィス王子はイザベラに対して何か言いたい事があるのだろうか。  本人に直接癒えなければ、姉である私から伝える事も出来るかもしれないけど……でも、トラヴィス王子はイザベラの婚約者だし、変に私が口を挟まない方が良い気がする。  将来、夫婦になる二人なのだから、しっかりと二人で話し合って欲しい。 「あ! イザベラで思い出したのですが……トラヴィス王子。イザベラを聖女として、様々な街へ……少なくとも、この街へ連れ来てください」 「ふむ。本人が了承すれば構わないが、どうしてだろうか」 「聖女の事です。この街が王都から遠いので仕方ないのかもしれませんが、殆どの街の方がイザベラではなく、私の事を聖女だと呼ぶのです。これは、この街でイザベラが活動していない為かと」 「いや、それは仮にイザベラを連れて来たとしても、変わらないと思う」  え? 何故だろうか。  トラヴィス王子がちゃんとイザベラの事を街の人に説明し、光魔法で街の人たちの怪我を治したりすれば、自ずと聖女の呼称がイザベラに向けられると思うのだけど。 「いいかい? アルマ嬢は光魔法が使えないと言うけれど、それは聖女に必須の素養ではないんだ」 「ですが、王都から離れた街とはいえ、少なくない方々に私が聖女と呼ばれてしまうのは問題かと」 「ふむ……よし、わかった。では、アルマ嬢が聖女と呼ばれても問題ないようにしよう」  ……えぇっ!? 待って! 話が変な方向に向かっているんだけど。 「カイル。王都へ戻ったら大臣を集めて欲しい。国内の法について確認し、父上や兄上たちに説明する」 「ま、待ってください! 私は聖女と呼ばれたい訳ではないんです」 「あっ! そうだった。申し訳ない。アルマ嬢は心を癒す為に、この街へ来ていたのだったな」  心を癒す為?  トラヴィス王子は何を仰っているのだろう? 「そうだな。まずは、先にそっちだ。アルマ嬢の心を癒す為に……僕が父上の決めた事だからと、何も考えずに従っていた事を、破棄する所から始めよう」 「……え? トラヴィス王子?」 「いや、こっちの話だから、気にしないで欲しい。さぁ、アルマ嬢。君の行きたいという場所へ案内して欲しい。この森の奥にアルマ嬢の好きな場所があるのだろう?」  ん? 私の好きな場所?  別に森の中が好きという訳ではなくて、あくまで魔物避けの魔法の実験の為に来ているんだけどな。  とはいえ、遠慮しなくて良さそうなので、どれくらいまで草魔法の効力を弱め、代わりに風魔法の効力を上げて良いかを調査しよう。  これで、弱い魔物は変わらず出てこないけど、魔物忌避の効果を弱めるから、それに耐えられる強い魔物が現れる頻度は高くなるけど……王子とカイル様がいるから大丈夫よね! 「わかりました。では、ついて来てください! 少し魔物が現れる頻度が増えますが、大丈夫ですね!」 「ん? アルマ嬢? 危険な場所には……」 「王子っ! アルマ嬢! S級のブラック・マンティスです! お下がりくださいっ!」  事前に説明した通り、魔物はちょっと増えたけど、全部氷魔法で凍らせたので問題無し!  そして、実験も大成功だし……トラヴィス王子が来てくれて、良かった!
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