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第28話 S級の魔物が多過ぎた森
「トラヴィス王子様! カイル様! お二人のおかげで、十分な実験が出来ました! 今回得た情報を纏め、より精度を上げていきますね!」
「……わかった。アルマ嬢が嬉しそうでなによりだよ」
実証実験を終え、無事に馬車へ戻ってきた。
魔物避けの魔法のおかげで、魔物に囲まれたり不意を打たれる事もなかったので、誰一人かすり傷一つ負う事が無くて本当に良かったと思う。
以前、この森でウィル君が瀕死の重傷を負っていた時は、本当に怖かったし。
けど今回は、トラヴィス王子とカイル様がいたから、万が一の事態も無いと信じていたけどね。
「しかし……王子。どうして、あの森にはS級と呼ばれる魔物が十数体もいたのでしょうか。あの数は、流石に異常だと思います」
「確かにな。S級の魔物など、年に一回か二回ほど目撃情報がある程度だ。あの森の更に奥へ行くと、何かあるのだろうか」
カイル様の言葉で、トラヴィス王子が考え込み始めた。
なるほど。街の人たちから、魔物の被害についてよく聞いていたので、あぁいうものだと思っていたけれど、実はかなり魔物が多いんだ。
「えっと、以前に騎士団の方たちが魔物を退治してくれたと思うのですが」
「騎士団は僕の掌握範囲ではないから詳しい事は聞いていないけれど、倒したのはA級の魔物ばかりで、S級の魔物とは遭遇していないと聞いている」
「直接その場におらず、聞いた話で恐縮ですが……この街へ来た騎士たちは森の中にも入り、魔物を殲滅したという話でした」
トラヴィス王子とカイル様の話によると、以前に騎士さんたちが来てくれた時には、S級っていう強い魔物はいなかったらしい。
「という事は、強そうな騎士さんたちが大勢来たから、強い魔物たちは森の奥へ隠れていたという事でしょうか」
「アルマ嬢の考えも有り得るとは思う。しかしながら、いわゆるS級に指定されるのは好戦的な魔物が多い。騎士たちが大勢きたからといって、逃げない気がするんだ」
「それに、先程の森の事を考えますと、騎士隊よりも遥かに強力なアルマ嬢へ向かって来ていますからね」
あの、トラヴィス王子のご意見はわかるのですが、カイル様が仰った、騎士さんたちよりも強い私……というのは理解出来ないのですが。
私は少々魔法が出来るだけの、ただの小娘です。
剣や盾を持つ事すら出来ませんし、大勢の魔物に囲まれたら何も出来ませんよ?
「……待てよ。この、急に強い魔物が増えた事象について、二つ心当たりがある」
「二つもあるのですか!?」
「あぁ。僕は宮廷魔道士団の団長でもあるから」
「えぇっ!? トラヴィス王子様は宮廷魔道士団の団長さんだったのですか!? 存じ上げず、申し訳ございません。是非、魔法について……特に魔法陣の多重構造理論について詳しい方を紹介いただけないでしょうか! お話を伺いたくて」
「……そ、そうだね。誰か……いや、僕が話せるようになっておくから、少し時間が欲しい」
「はいっ! お願い致します!」
小さな魔石へ魔法を込める際に、魔法陣を活用すれば、更にいろいろ出来るんじゃないかなーって思ったんだけど、手元に魔法陣の理論に関する本が無くて、本屋さんにも無かった。
宮廷魔道士さんたちなら、きっと凄く詳しいだろうから、どんな本に載っているかだけでも教えて欲しい。
「……こほん。えっと、話を戻すけど、魔物が増えた心当たりの一つは、使役魔法だ」
「使役魔法……ですか? すみません。聞いた事がない魔法です」
「闇魔法の一種だから、アルマ嬢が知らないのも無理はないよ。簡単に言うと魔物を操る魔法で、先程アルマ嬢が言った通り、騎士団が来ている時だけ強い魔物を森の奥へ隠されさせてやり過ごす……なんて事も出来ると思う」
「そんな事が出来るのですね」
「ただ、今の話を実現させようとすると、騎士団が来るタイミングがある程度分かっていないと難しいだろう」
確かに。ずっと隠れさせておくならともかく、騎士さんたちが来ている時だけ奥に隠れて、帰っていったら再び現れるというのは、トラヴィス王子の言う通りでタイミングが分からないと実現出来ない。
「もう一つの心当たりは、召喚魔法だ」
「召喚魔法というと、その名の通り魔物を何処かから召喚する魔法でしょうか?」
「その通りだ。だけど、これも何処から魔物を召喚するのかという話があるし、使役魔法と同様に闇魔法だから、そもそも使える者はいないはずなんだ。禁呪として指定されているからね」
なるほど。時魔法を勉強していただけでも、闇魔法ではないかと疑いを掛けられ、私は騎士さんたちに連れて行かれてしまった。
だから、闇魔法を学んでいれば、すぐに騎士さんたちが駆けつけて来るだろうし、そもそも闇魔法を学べる環境が存在しないと思う。
「ひとまず、あの森の事は僕たちも調べておくよ。だから、アルマ嬢は出来れば近付かないで欲しい」
「わかりました」
「うん。未来の婚……こほん。アルマ嬢に万が一の事があっては困るからね」
「無茶な事はしないように致しますね」
「ははは。是非、そうしてもらいたいな」
そんな話をしている内に、お爺様のお屋敷へ到着した。
森の事が気になるのか、トラヴィス王子とカイル様が、すぐ御自身の馬車へと乗り換える。
「では、僕たちは一旦王都へ帰るよ。アルマ嬢……次はいろいろと筋を通してから来るつもりだから、少し時間が掛かるかもしれない。だけど、必ず君を迎えに来るから、待っていて欲しい」
そう言って、王子たちを乗せた馬車が走って行ったけど……迎えに来るとはどういう意味だろうか。
あ……ちゃんと魔物避けの魔石を法的に使えるようにしておくから、それまでに魔石の改良を済ませておいてって事ね。
よし! 頑張ろう!
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