第29話 魔物避けの魔石の改良

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第29話 魔物避けの魔石の改良

 トラヴィス王子たちが帰った翌日。  早速研究所へ行き、昨日得た情報を基に魔石へ魔物避けの魔法を込めていく。 「んー、やっぱり難しいかぁ」 「アルマ様? どうかされたんですか?」 「えぇ。昨日、ようやく実証実験が終わって、魔物が忌避する香りが複数ある事がわかったのよ。だから、一つの魔石に草魔法を重ね掛け出来ないかなーって思って」  昨日、実証実験を行った結果、昆虫が凄く嫌うけど獣は平気とか、獣は嫌うけど蛇には全く効かないとか……風魔法も加えると、一つの魔石に四つは組み込みたい。 「よ、四多重!? というか、二種類の魔法を込めているだけでも、十二分に凄いのに、まだ上を目指そうとしているんですか!?」 「上を目指すというか、街の人たちを守りたいだけなんだけどね。全ての魔物に効かなくても良いけど、この街の周辺に現れる魔物は近寄らないようにしたいじゃないですか」 「それはそうですが……とはいえ、四多重なんて前代未聞ですよっ!」  うーん。大きな魔石なら出来そうなんだけとなー。  実際、小さな魔石でも、三つなら込められたし。 「仕方がない。トラヴィス王子がいつやって来るかはわからないけど、魔石の後の工程もあるから、ひとまず三つで進めましょうか」  という訳で、何かしらの種別……昆虫以外には効くとか、獣以外、爬虫類以外って感じで、万能ではない事を明確にして、魔石に魔物避けの魔法を込めていく。  二種類の魔石を使えば、この辺りに現れる魔物を全てカバー出来るものの、魔石の数が倍必要となってしまうので、本当は一つで済むようにしたかったんだけどね。  ただ、昨日実験した魔物以外については、効くかどうかすらわからないので、過信は禁物だという事も話しておかなきゃ。  という訳で、実証実験用の魔石が昆虫系の魔物に効果が高く、他の魔物には効果が低いと分かったので、昆虫系以外に効く魔石を沢山作る。  ケヴィンさんに事情を説明し、実験用の魔石を設置していた畑を回って行く事に。 「実験の結果、この魔石と一緒に使う事で高い効果が得られる事が分かったので、一緒に置かせてください」 「ふ、二つも……宜しいのですか!?」 「はい。最初の一つだけだと、昆虫系にしか効果が高くなかったので」 「いえ、なんなら昆虫系だけでも十分ですよ。奴らときたら、葉物野菜を穴だらけにしたり、根菜だって葉っぱを食べて栄養が行き渡らないようにしたりと、最悪ですからね。更に大群でやってくるイナゴなんて……」  昆虫系の魔物に相当恨みがあるのか、農家さんの話が止まらない。  けど、畑には昆虫系を避ける魔石の需要が高いという事もよく分かった。  なので、実験用の魔法具では獣や爬虫類にはそれほど効果が無かったにも関わらず、魔物被害の話がなかったんだ。  とはいえ、ちゃんとこの辺に現れる魔物に対応出来るように、追加の魔石も配置していくけどね。 「ケヴィンさん、ありがとうございました。これで、街がより安全になったと思います」 「いえいえ、僕はただ一緒に回っただけです。アルマ様のお力があってこそですよ」 「いえ。ケヴィンさんが一緒だからこそ、農家の皆さんが信頼して魔石を設置させてくださっているんです」  数ヶ月前に突然やってきた、何処の誰だか分からない人が、変な石を畑に置かせて……と言って、置かせてくれるとは思えないからね。  それから、二日掛けて全ての畑に魔物避けの魔石を設置し直して、次はクライヴの所へ。 「アルマ師匠! 例の涼しくなる魔石ですが、いかがでしょうか。先日のトラヴィス王子へお渡しした試作版から、更に改良を加えたんです」 「わぁ! 凄い……冷風を出す時と出さない時が、ボタンを押すだけで切り替えられるだけでなくて、方向や風量も変えられるのね」 「はい。これなら、特に冷やしたい場所へ風を向けたいとか、冷やし過ぎたくはないけど、全く冷やさないのは暑い……といった要望にも応えられるかと」  流石はクライヴ君ね。私は、魔石に魔法を込める事は出来ても、こんな風に使い勝手を向上させる事は出来なかったもの。 「ところで、アルマ師匠。依頼された通り、こちらの販売については領主様と相談を進めさせていただいておりますが、本当にアルマ師匠の利益は不要なのでしょうか?」 「えぇ。私は魔石に魔法を込めているだけで、それ以外の事は何もしていないもの」 「技術料としては、それが一番高額というか、凄い事なのですが……ひとまず承知しました。出来るだけ価格を下げ、また領主様のお力で貴族による買い占めなどを防ぎ、街の人たちに行き渡るように致しますね」 「お願いします」  これで、街の人々が更に快適に……って、冷風装置の凄さに感心して、肝心な事を忘れてた。 「クライヴ君。また新たなお願いがあるんだけど……」 「師匠の頼みでしたら、何でもやりますよ。お任せください」 「じゃあ、これなんだけど……」  魔道具の作成が得意なクライヴ君に、新たなお願いをしてみた。
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