第4話 五年ぶりの再会

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第4話 五年ぶりの再会

「えっ!? えぇぇぇっ!? だ、誰ぇぇぇっ!?」  翌朝。誰かの叫び声で目が覚める。  何だろう? 何かあったのかな? 「どうかされたんですか?」 「どうかされたんだよっ! お姉ちゃんは誰っ!? どうしてボクのベッドで寝ているのっ!? というか、起きたのなら、離してよーっ!」  んん? 抱き枕がジタバタ動いて叫んでいる?  一体どういう仕組みなのだろうか。 「凄い。枕が喋るんだ……」 「ボクは枕じゃないよーっ!」 「どういう魔法陣なんだろ? 内部はどこから開けられるのかな?」 「ぬ、脱がさないでよっ! 誰か……誰かぁぁぁっ!」  抱き枕が一際大きな声を上げたかと思うと、突然部屋の扉が開かれる。 「坊ちゃま! 一体何が……えっ!? ま、まさかアルマ様ですか!?」 「んー……私はアルマだけど?」  部屋に入ってきたメイドさんに聞かれた事を答えると、慌てた様子で部屋を出て行く。 「こ、これは大変ですっ! だ、旦那様っ! 旦那様ぁぁぁっ!」 「えぇっ!? ボクは助けてくれないのっ!? 知らないお姉ちゃんに、抱きしめられたまま何だよーっ!?」  再び大きな声で叫ばれて少しずつ視界がハッキリとしていき……自室にある抱き枕だと思っていたものが、十二、三歳くらいの男の子に変わっていく。  えーっと、寝起きが弱いのはいつもの事だけど、これって……私、かなりやらかしちゃった!? 「……こ、こほん。えっと、一応確認するけど、君は男の子……だよね?」 「え? うん。そうだけど?」 「だよねー。じゃあ、そういう事で……きゃぁぁぁっ!」 「叫びたいのは、こっちだよぉぉぉっ! ここ、ボクの部屋だからぁぁぁっ!」  一応、十代の乙女なので叫んでおいたけど……昨日、寝る前に触れた変な感触は、この子だったのかぁ。  ここは、私が幼い頃によく来ていたお祖父様の家で、この部屋をいつも使わせてもらっていたんだけど、もう五年くらい来ていなかったから、他の子にあてがうよね。  よく考えれば、私の記憶とは置かれている物が違うし、誰も使っていない部屋が、こんなに綺麗に掃除されている訳がない。  しかし、この子は誰だろう。  お祖父様の子っていうのは流石にないだろうから、私と同じ孫……よね?  この辺りでは珍しい黒髪と黒い瞳で、人懐っこい可愛らしい顔。何故か抱きしめていると、懐かしく感じるんだけど……あれ? 待って! もしかして…… 「ねぇ、君。まさか……ウィル君!?」 「えっ!? どうしてボクの名前を?」 「やっぱり! 久しぶりーっ! 私、アルマよ! わかる? わかるわよね?」 「……あっ! アルマお姉ちゃんっ!?」 「そうっ! きゃーっ! あんなに小さかったウィル君が大きくなってるーっ!」  ようやくこの男の子が誰か分かったところで、改めて抱きしめる。  私の六歳歳下で、従姉弟にあたる子だ。  本名はウィリアムなんだけど、ずっと愛称であるウィルって呼んでいたので、このままで良いかな。 「あ、あの。アルマお姉ちゃん。ボク、もう十二歳だから、子供じゃなくて……」 「きゃーっ! ウィル君がもう十二歳なんだー! 懐かしいねー! 最後に会った時は、私が家に帰る時『お姉ちゃん行かないでー!』って抱きついてきてたよね!」 「――っ! そ、それって七歳くらいの時の話でしょ!?」 「ふふっ。お姉ちゃんは暫くここに居るつもりだから、もう寂しくないよー?」  あの頃は、ウィル君が一緒に寝るーって言って、毎晩私の部屋に来てたっけ。  このベッドで二人……うん。当時は大きなベッドだと思っていたけど、流石に今は小さく感じるかな。  大きくなったウィル君を抱きしめながら、いろいろと思い出を懐かしんでいると、部屋に誰かが入ってきた。 「おーい、アルマ! いつの間に来たんだ? お爺ちゃんに顔を見せ……」 「あっ! お爺様ーっ! お久しぶりですーっ!」 「おぉぉ……大きくなったのう! まったく。来ると事前に言ってくれていれば、出迎えに行ったというのに」 「急にすみません。ちょっといろいろありまして、暫く泊めていただきたいんです」 「構わん構わん。幾らでも泊ると良い。それよりも、急に来る事になった理由を知りたいが……ひとまず朝食にしよう。ウィリアムも来なさい」  お爺様に声を掛けられ、ウィル君が慌ててベッドから降りる。  ……あ、そうだ。すっかり忘れていたけど、お爺様は私には優しいのに、何故か他の人にはちょっと厳しいんだった。  同じ孫なのにイザベラにも厳しいから、お父様がお爺様に頼みがある時は、いつも私が代わりにお願いしていたんだ。  ……どうしてだろう?  そんな事を考えていると、ウィル君がジッと私を見つめてくる。 「ウィル君、どうしたの?」 「いやあの、着替えたいんだけど……」 「あ、ごめんね。じゃあ、手伝ってあげるー!」 「え? ちょ、違……お姉ちゃん!? アルマお姉ちゃん!?」  お爺様は食堂へ移動したけど、一緒に来ていたメイドさんと共にウィル君の着替えを手伝うと……何故かウィル君が泣き出しそうな表情になってしまった。  ……あ、そうか。五年ぶりだから懐かしいんだね。
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