第31話 数か月ぶりの王都

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第31話 数か月ぶりの王都

「……という訳で、トラヴィス王子様がイザベラとの婚約を破棄したらしいんです」 「そ、それは確かな情報なのか!?」 「王宮に出入りしている方から直接聞いた訳ではありませんので、事実を確認する為にも、一度家に帰ろうかと」  屋敷へ急いで戻り、クライヴ君から聞いた話をおじいさまへお伝えした。  お爺様へ話した通り、帰る事だけ伝えて、すぐに空間転移魔法で帰るつもりだったんだけど、お爺様の反応が少し違う。 「ふむ。遂に王子が動かれたか」 「えっ!? お爺様!?」 「アルマよ。久しぶりにアルマと再会した時に話した通り、イザベラには申し訳ないがトラヴィス王子の妻には不適だと、ワシは思っておる」 「ですが、だからと言って、才能や能力だけで婚約破棄をするのはどうかと思います。二人の気持ちだってあるでしょうし」 「いや今回の婚約破棄については、二人の……少なくともトラヴィス王子の気持ちによるものだろう」  えぇっ!? そんな事……いやでも、前にトラヴィス王子がいらっしゃった際、イザベラに言いたい事が言えていない様子だった。  ……もうっ! イザベラは何をしているのよっ! 「アルマよ。王都へ戻るなとは言わぬが、もう少し落ち着いてから話を聞きに行ってはどうだ? 今回の件は、イザベラは言うまでもないが、愚息にとっても王族からの婚約破棄は痛いはずだ」 「……あ、確かに。お父様やお母さまもショックを受けている可能性が高いのか」 「うむ。正確な情報を収集したいという気持ちは分かる。だが、今は当事者の誰に聞いても良い事にはならないだろう」  うぅ……確かに、お爺様の言う通りかも。  それに、この件に関しては、私が関与できる事が少なすぎる。  イザベラは慰めの言葉なんて掛けたら、同情するなと絶対に激昂するだろう。  お父様とお母様については、お爺様の言う通りだし、トラヴィス王子様は謹慎状態という話だったので、お話を聞く事は出来そうにない。  正確な話が聞けそうで、かつ一番冷静で客観的な視点を持っていらっしゃるのは……そうだ! 「お爺様。では、カイル様にお話を伺って参ります」 「……アルマよ。止めても無駄なのだろうな。まぁカイル殿を選んだあたり、まだワシの話を聞いてはくれていたようだが」 「では、ちょっと行ってきますね。一応、夕食までには帰って来るつもりですので」 「……はぁ。わかったが……無茶な事はしないようにな」  という訳で、お爺様にも行き先を伝えたので、すぐに空間転移魔法を使い、王都にある実家の自室へ。  数か月ぶりに戻って来たけれど、部屋は私が出て行った時のままのようで、薄っすらと誇りが積もっているように思える。  あと、婚約破棄のせいだろうか。屋敷全体が静かというか、暗く沈んでいるような気がする。  そんな静かな屋敷の中で誰かに見つかれば、悪目立ちしてしまう気がしたので、窓からそっと外へ。 「誰も……いない?」  普段なら、中庭に少なくとも一人は庭師さんがいるのだけど、今は誰もいない。  というか、人の気配が無さ過ぎるように思える。  いつもは、メイドさんが掃除している様子が、何処かの部屋の窓に映るはずなのに、私が出てきたのを覗いて、どの窓も閉じられ、厚いカーテンで隠されていた。  もしかして、お父様もお母さまも、ショックで塞ぎ込んでいるとか!?  お爺様には待つように言われたけど、お父様ともお話をした方が良い気がしてきた。  とはいえ、まずはカイル様だ。屋敷の馬車を使う訳にもいかないので、王宮に向かって歩いていると、突然すぐ近くに何頭かの馬が止まる。 「えっ!? ま、まさか、アルマ・ウォレス様では!?」 「はい。そうですが……あっ! 以前、闇魔法使いの疑いを晴らしてくださった騎士さんですか!?」 「えぇ、そうです……って、それどころじゃない! だ、誰か! 急いでカイル様へご連絡を! 入れ違いになっている!」 「あの、カイル様が何か……」 「いえ。貴女様に直接お話があると仰り、単身でムラスゾムの街へ向かってしまわれたので。す、少しお待ちください! 大急ぎで連絡致しますので!」  何でも、騎士さんたちで使っている魔道具に、離れた相手に簡単な用件を伝えられる効果があるそうで……何故か、王宮の近くにある騎士団の詰所でカイル様が戻られるのを待つ事になってしまった。
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