第33話 誰もいない実家

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第33話 誰もいない実家

 カイル様とのお話しが終わり、騎士団の馬車で実家まで送っていただける事に。  馬車の中には、カイル様が。場所の外には馬に乗った騎士さんたちが六人くらい並走していて、馬車を護衛……って、いつもトラヴィス王子がお爺様の所へ来られる時よりも護衛が多くない!?  そんな事を思いながらも、すぐに馬車が実家の前へ到着したんだけど……様子がおかしい。 「カイル様、アルマ様。門に誰もいないのですが……」 「えっ!? いつもなら、門番さんがいるはずなのですが」  窓から見てみると、確かに誰も立っていない。  それに周りの騎士さんが、門に設置されている、来訪を告げる魔道具を押しているのに、屋敷から誰も出て来ないみたいだ。 「……アルマ嬢。門に鍵すら掛かっていないようだ。このまま中へ進んでも構わないか?」 「はい。参りましょう」  空間転移魔法で来た時と同じく、中庭に誰もいない。  さっきは、皆落ち込んでいるのかと思いつつ、裏口から出てしまったけど、正門も確認しておけば良かった。  今更考えても仕方がないので、カイル様や他の騎士さんたちと一緒に正面の扉から屋敷へ入ると……明らかに人骨と思われる、服を着た骨が十人分くらい床に落ちている。 「これは……一体何があったんだ!?」 「時魔法……時間遡行! ……ダメですね。少なくとも、骸骨の姿になって一日以上経過しています」  以前は数分前にしか戻せなかったけど、自分の魔力を戻す方法で何度も魔法が使える為、時魔法の鍛錬を積み、丸一日戻せるようになった。  だけど、それより前に戻す事は出来ず、骸骨は変わらぬままだ。 「ひとまず、生存者を探すぞ。一人で行動するな。二人一組だ」  カイル様と共に屋敷の中を探索し、執務室へ入ると…… 「お父様っ! お父様ぁっ!」 「アルマ嬢。この骨は……」 「この服は……お父様のお気に入りの服で……それに、左手の結婚指輪が……」 「そうか……」  奥の机の上に突っ伏す骸骨が、どう見てもお父様のそれだった。 「どうして……どうしてこんな事に」 「カイル様。おそらく生存者は皆無……」 「……外で聞こう」  騎士さんに呼ばれてカイル様が執務室を出て行き、暫くすると、ローブ姿の方と共に戻ってきた。 「宮廷魔道士のスコットと申します。残念な報告ですが、魔法も使って探索を行ったものの、生存者は確認出来ませんでした」 「そう……ですか」  聞きたくなかったけど、今この屋敷の中に血族が私しかいないので、聞かざるを得ない。 「アルマ様。そちらのご遺体がお父上という事でしたが、お母上とイザベラ様のご遺体があるか、ご確認いただけないでしょうか」 「……わかりました。参ります」  覚悟を決めて部屋を出ると、エントランスにドレス姿やメイド服、女性ものの服を着た骸骨が並べられていた。 「――っ!」 「お辛いとは思いますが、お願い致します」  思わず息を飲み、顔を覆うが……スコットさんに促されて一人ずつ確認していく。  正直言って、骨を見たところで、だいたいの背丈や体格くらいしかわからない。  しかも、ここには女性の遺体ばかり集められているので尚更なのだが……見覚えのある服と装飾品を見つけた。 「……こ、こちらのドレスの遺体は……お、おそらくお母様かと。ネックレスが、いつも着けていたものです」 「なるほど。イザベラ様は?」 「……わかりません。この中の誰かかもしれませんが……少なくとも、イザベラが好んで着る服の者はおりません」  順番に見てきたけれど、大半はメイド服か私が着ているような普段着で、イザベラが好きそうな豪華なドレスはお母様だけだ。  意外に、この動き易そうな服……ううん。イザベラがこういう服を着ているのを見た事がない。 「ふむ。実は……ですね。こちらのご遺体からは、いずれも微かに闇魔法の力が残っておりました」 「闇魔法の!?」 「はい。そして闇魔法の中には、このように触れた相手が骨になるまで精気を奪う禁呪があると、何かで読んだ記憶があります。この魔法を使うと、相手の生命力や魔力を奪い、自分のものに出来るとか」 「そ、そんな魔法が!? だけど、どうしてお父様や我が家で働いてくださっている方たちが……あっ! まさか……」 「おそらく、そのまさかでしょう。どうやって、この禁呪を習得したのかはわかりませんが、イザベラ様……いえ、イザベラが魔力を得る為に、この屋敷の者を襲ったのかと」  スコットさんの話が事実だとすると、イザベラはなんて事を……人の命を奪って魔力を得るなんて、許される事ではない! 「……しかしイザベラが、どうして禁呪まで使って……それも実の両親を殺してまで力を得たかったのかがわからないのです。彼女は聖女と呼ばれる程の魔法の使い手だというのに」 「あー……スコット殿。これまでトラヴィス王子が隠しておりましたが、イザベラは光魔法を使えはするものの、その魔力はとても少なく、殆ど使い物にならない程度の効果しか出せなかったんです」 「なんと……では、イザベラは無理矢理魔力を集め、何かの魔法が使いたかったのでしょうか? 光魔法……いえ、もっと他の闇魔法とか? ですが、精気を奪う魔法と同じで、どうやって他の闇魔法を……」  スコットさんとカイル様の話を聞いていて、ふとイザベラに教えてもらったあの場所の事が頭を過る。 「ま、待ってください! あります! この屋敷に闇魔法の魔道書が隠されているんです!」
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