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第7話 アルマのお願い
「お爺様。私に屋敷の外で働かせていただく許可をいただけないでしょうか」
「なん……じゃと?」
「私はイザベラの邪魔にならないよう、ウォレス家の名を捨てたつもりです。となれば、働くのが普通かと」
正直な事を言うと、お父様から外で働く事を許可されず、一人で魔法の研究に打ち込んでいたので、魔法に関する職に就こうと思っていたのよね。
一人だと、どうしても視野が狭くなるし……と、補足として、そんな話を加えると、またもやお爺様が難しい顔になる。
「つまり、あのバカ息子はアルマを屋敷に閉じ込め、その才能を活かせなかったという事か」
「閉じ込められていた訳ではありませんが、外の方と魔法の話をする機会が少なかったのは事実です」
実際、貴族としてお茶会とかには時々参加していたけど、そんな場所で魔法の話なんて出来ないし、したところで何かが得られるとは思えない。
なので、昨日のパーティでの宮廷魔道士さんたちと話が出来たのは非常に有意義だったし、もっと話がしたかったんだけどね。
「……分かった。今の話からすると、働く場所はお爺ちゃんが手を回してはならぬのじゃな?」
「出来れば」
「わかった。ではアルマの好きなようにして良いが、三つ頼みがある」
「頼み……ですか?」
「うむ。あくまでお爺ちゃんからのお願いじゃ。強制ではないが、頼む」
お爺さまが出した三つの頼みについては、要約するとこんな話だった。
『毎日この屋敷に帰ってくる事』
『何処でどんな仕事をする事になったかを伝える事』
『ウィル君を護衛として連れて行く事』
二つ目までは何とも思わなかったんだけど、三つ目はどうなのかな?
「お爺様。ウィル君の護衛をする……の言い間違いでしょうか?」
「いや、ウィリアムはこの年齢にしては剣が使える。お爺ちゃんが治めている街ではあるが、ならず者が全くいない訳ではないからな」
なるほど。そして、お祖父様に褒められ、ウィル君がニヤニヤしているのを隠そうとして隠せていない。
ふふっ、可愛い!
「だが、あくまでこの年齢にしては……だ。襲われた時に、ウィリアムが相手を撃退するなどといった事は期待せぬように。成人男性が相手ならリーチでも腕力でも負けるし、あくまでアルマが逃げる為の時間稼ぎになる……といった程度だ」
あ、ウィル君の表情が一気に暗くなってしまった。
よしよし。後でお姉ちゃんが慰めてあげよう。
「まぁとはいえ、あと三年もすれば、ウィリアムの身体も成人のそれに近くなるはずだ。背もアルマを抜かすだろうし、精進し続ければ一端の剣士となって、騎士の士官試験くらいは突破出来るだろう」
お爺様の言葉で再びウィル君が明るく……って、もしかしてお爺様はわざとやってる!?
いやまぁ、コロコロ表情が変わって面白いし、可愛いけどさ。
「アルマお姉ちゃんは、ボクが絶対に守るから、心配しないでっ!」
「えぇ、お願いね。頼りにしているわ」
「うんっ!」
頼られたのが嬉しいのか、それともお爺様の言葉が効いていたのか、ウィル君が顔を輝かせて私の手を取る。
聞けば、今日は学校が休みらしいので、護衛として一緒に街を回れるらしい。
……あぁ、そういえば昨日のパーティも週末に開催されたんだった。
「坊っちゃまも立派になられましたね」
「いや、エミリーよ。ウィリアムはまだまだこれからだ」
「と、とにかく、明日は学校で護衛が出来る時間が限られるし、早く行こーっ!」
エミリーさんがホッコリし、お爺様は相変わらずだけど……ウィル君に手を引かれて屋敷の外へ。
久しぶりに見た中庭は、かつて見た時と同じで、綺麗な花が咲き乱れている。
ウィル君によると、庭師さんたちが毎日丁寧に庭の世話をしてくれているそうだ。
「ところで、アルマお姉ちゃん。街を案内するけど、どういうところへ行きたいとかってあるの?」
「んー、とりあえずは魔法に関連しそうなところかなー?」
「わかったー! お姉ちゃん、ついてきてー! お姉ちゃんが気になりそうなところへ連れて行ってあげるー!」
ウィル君のエスコート? で屋敷を出ると、早速街へ向かう事にしたんだけど、
「ボクが思ってたのと違う……」
何故かウィル君が頬を膨らませてしまった。
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