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第8話 久しぶりの街並み
「アルマ様。では最初の目的地を、この街にある魔法学院の支部に致しますね」
「ありがとう」
ウィル君と屋敷を出ると、既に馬車が用意されており、後からやってきたエミリーさんも乗り込んで、出発する。
窓から外を見ていると、遠目に葡萄畑が広がっている様子が見えた。
「わぁ! 懐かしい……よくあの畑で遊んだっけ」
「そうだよね! ボクと……」
「あちらの葡萄は試行錯誤の上、品種改良を行いまして、今ではこの街の特産品でもある葡萄酒の原料となっておりますね」
エミリーさんが説明してくれた通りで、ここが辺境と呼ばれているにもかかわらず、街として潤っている理由の一つが、葡萄酒だ。
私はお酒を飲まないから分からないけど、お爺様が商売ではなく、趣味なのでは? と言われるくらいにお金と時間を費やして、美味しくしたらしい。
「あ、凄い! 大通りの雰囲気が違ってる!」
「そうそう! えっとね……」
「領主様が街の基盤構造の改善に着手されたのです。街の地下に水が通る道を作っており、魔法が使えない者でも、容易に水が使えるようになっています」
凄い。地面の下を水が通っているんだ!
流石はお爺様ね。
大通りの街並みを見ていると、可愛らしいお菓子屋さんが目に映る。
「あっ! あのお菓子屋さんって、マドレーヌが美味しかったよね!」
「うんっ! 他にもシュー……」
「あちらのお店は、バターに拘っていると店主に伺っております。甘過ぎない為、焼き菓子でしたら領主様も食べられると思いますので、後ほど買っておきますね」
幼い頃にあのお店でお菓子を買ってもらって、ウィル君と一緒に食べた事を思い出す。
イザベラはクリーム系のお菓子が好きみたいで、マドレーヌよりもケーキが良いって口を尖らせていた気がする。
思い出したら、マドレーヌが食べたくなってしまい、後でエミリーさんに是非とも買ってもらおうと思っていると、
「……ボクがアルマお姉ちゃんをエスコートするはずだったのに……」
正面に座るウィル君が小声で何か呟き、頬を膨らませている。
なんて言ったかは良く分からなかったけど、もしかして泣きそうになっているのかな?
あ……そういう事?
「ウィル君。ちょっとこっちへ来て」
「……? アルマお姉ちゃん、どうしたの?」
「えいっ!」
近寄ってきたウィル君の身体を抱き上げると、クルッと半回転させて、私の膝の上へ座らせる。
「ほら、これで窓から外が見えるでしょ? あっ! あのお店も可愛い!」
「――っ!? お、お姉……違っ、ボクは……」
「ん? ウィル君。どうしたの?」
「……な、何でもないっ!」
あれ? 流石に膝の上に乗せたのは、子供扱いが過ぎたのかな?
大きくなったとはいえ、私からすればまだまだウィル君は幼く感じるんだけど、耳まで真っ赤に染めて怒ってしまった。
決して私の顔を見ようとしないし、微動だにせず、何も喋ってくれない。
「ウィル君ー? どうしたのー?」
「ひゃぁっ! み、耳元で話しかけちゃダメだよっ!」
「あの、アルマ様。そろそろ目的地に着くので、ウィリアム様を放してあげてください。もう限界っぽいですし」
限界? エミリーさんの言葉は、どういう意味だろう?
よく分からないままに大きな建物の前で馬車が止まり、エミリーさんに続いて、ウィル君も逃げるようにして降りてしまった。
けど、私が馬車から降りる時には、ちゃんとエスコートしてくれて……うん。ウィル君が紳士になってるー!
ただ、まだ怒っているのか、顔を紅く染めて目を逸らされてしまったけど。
「アルマ様。こちらが、魔法学校の支部となります。王都にある本校には敵いませんが、魔法の講師や生徒が大勢おります」
「ありがとうございます。ふふっ、楽しみー!」
どんな話が聞けるかなー?
ワクワクしながら中へ入ると、エミリーさんが受付の方と話して奥へ案内される。
「失礼します。支部長、お客様です」
「悪いが今は忙しい」
「領主様のお孫さんですが」
「チッ……こほん。私がこの魔法学校の支部長を務めるキャロルだ。どういったご要件かね。お孫さん」
うーん。どうやら凄く忙しい時に来てしまったみたいで、学長さんの機嫌がかなり悪いみたい。
三十代後半といった感じの女性……キャロルさんが、面倒臭そうに立ち上がって、こちらへやって来た。
「えっと、お忙しそうなので、また改めてでも構いませんが……」
「いや、もう手を止めてしまった。また止められても困るし、要件をお聞かせ願いたいんだが」
「では……私はアルマと申します。独学で勉強していたので、自分の力量がどれほどか分からないので、お話を伺えたらと思いまして」
ひとまず、ここがどんなところか知りたくて、話を聞きたいと告げると、キャロルさんがジト目で私を見つめ……何か思いついたらしく、突然ニヤリと笑みを浮かべる。
「アルマ嬢。そういう事なら丁度良い相手がいる。着いて来るが良い」
「本当ですか! ありがとうございます!」
突然の事にも関わらず、私のお願いに対応してくれるみたい。
忙しそうなのに……キャロルさんは良い人ね。
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