第八章

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 当時の聖女様は、そのお菓子を食べないようにと言いたかったのでしょう。ですが、幼いわたくしたちにとって、特別なお菓子は楽しみなもの。  聖女様のお言葉なんて、すっかりと忘れていました。  それからしばらくして、身体が熱くて力が抜けるような感覚がありました。  寝台から下りることもままならず、見かねた同室の巫女が、枢機卿を呼んできたのは覚えています。  すぐに地下にある部屋へと運ばれ、特別な食事をとるようになりました。熱が高いからだと、彼らは言いましたが、今、思えば、きっとあれにも魔石が交ぜられていたのでしょうね。  熱に浮かされながら、枢機卿たちの言葉に従っておりました。  するとある日、熱はすっと下がり、身体が軽く感じられたのです。  部屋へとやってきたのは教皇でした。ファデル神からの神託がおりたとおっしゃったのです。つまり、わたくしが次の聖女であると。  実は、そのときにはすでに聖女様の神聖力も弱まっていたのです。  教皇の言葉に従えば、わたくしに神聖力が備わっているのがわかりました。何もないところに火がつき、風を起こし、ものを移動させる。  わたくし自身、信じられませんでした。
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