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プロローグ
東の空が明るくなりつつある。
フリオ山の向こう側から太陽がゆっくりと昇り、王都エルメルの街を明るく照らし始めた。王城と大聖堂の真っ白な尖塔は、朝日を浴びて黄金に輝く。
エルメルの街には、東西南北の四カ所に騎士団の分所がある。広い王都の治安を、昼夜問わず守るのが王国騎士団の責務。そのため分所には、深夜であろうが、早朝であろうが、必ず騎士が常駐している。
その日、東分所で寝ずの番をしていたのは、アロンとデニスの二人の男性騎士であった。
アロンは二十代で、騎士となって二年目の若手だ。デニスは四十代の熟練の騎士である。特に夜間は、二人一組で動くようにと厳しく言われている。
カタンと物音がして、アロンははっと目を開けた。この明け方がもっとも眠い。
分所の建物の入り口には、朝日を浴びて人の影がぬーっと伸びている。誰かがやって来たようだ。
「デニスさん……」
こんな早朝から、静かにここを訪れる人間に警戒心を抱いた。
非常識な時間帯に分所にやって来る者は、たいてい大声をあげたり走ってきたりと、何かと慌ただしい。だから、静かに訪れるというのが、不気味なのだ。
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