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ラクリーアの姿を目にしたアルテールは、すっと彼女の前に進み出て、そこでおもむろに跪く。
洗練されたその動きに、カリノも思わず目を奪われた。
アルテールはラクリーアの左手をとった。
「聖女ラクリーア。どうか、私、アルテール・ファーデンと結婚していただけないだろうか?」
その言葉で大聖堂内はシンと静まり返った。こそこそと話をしていた巫女たちも、一斉に口をつぐむ。
ファーデン国の王太子アルテールが、聖女ラクリーアに求婚した。
だが、今まで聖女が王族と結ばれた過去はない。
すうっとラクリーアが息を吸うのが感じられた。
「お断りいたします。わたくしは大聖堂に身を置く者。あなた様と共に生きる道はございません」
せん、せん、せん……と、ラクリーアの声は静かな室内に反響する。
一瞬だけ驚きの表情を見せたアルテールは「なるほど」と口角をあげた。それからゆるりと立ち上がり、威圧的にラクリーアを見下ろすものの、ラクリーアに怯む様子はなかった。
「わたしの誠意が伝わらないとは残念です。今までは王族と大聖堂と別れておりましたが、昔は一つだったのではありませんか?」
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