第六章

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 だがな、とそこでタミオスの声が低くなる。それは、周囲に聞こえないようにという彼なりの配慮の仕方だ。 「嬢ちゃんの移送が決まった。今日の午後だ」  フィアナはすぐには言葉が出てこなくて、ぱくぱくと口を開けた。大きく息を吸って、やっとの思いで小さく尋ねる。 「まだ、時間はあるはずですよね?」 「ああ、上から圧力がかかった。何よりも亡くなったのが聖女様だからな」 「つまり、大聖堂側はそろそろこの件を公表するということですか?」  昨日、イアンと話をしたときには、そういった内容を聞いていない。 「それは知らん。だが、聖女様の遺体の引き渡しを要求されたようだ。聖女様の遺体がなければ、次の聖女様も指名できないとかなんとからしい。となれば、さっさと事件としては解決させておきたいところだ。ようは、こっちとしては、何かのどんでん返しがあって、もう一度、聖女様の遺体を調べなければならない状況を懸念してるんだよ」  タミオスの言わんとしていることがなんとなくわかった。  大聖堂は聖女の遺体の返還を求めている。しかし、犯人がカリノだと断定できていない今では、遺体を返すことはできない。
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