第六章

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 突然、キアロが「逃げるぞ」と言ってカリノの手を引っ張ったあの夜。  両親の背を、キアロと一緒に追いかけていたのに、目の前に閃光が走ったあのとき。  何が起こったのかなんてわからなかった。 『カリノ、こっちだ』 『お父さんとお母さんは?』 『わからない。だけど、あっちには行けない』  とにかく無我夢中で走って、逃げて、走って――。  空が白み始めた頃には森の中にいた。  町を見下ろす場所に広がっている森。そこから見下ろすと、ごぉごぉと炎が音を立てて、建物を燃やしていた。  森の中には同じように逃げてきた人がいるものの、誰もが呆然と立ち尽くす。 『お兄ちゃん……』  カリノはキアロにひしっと抱きついて、町の火が消えるのをただただ待った。  燃やすものがなくなれば、火は自然と消える。次の日に少し雨が降ったのも幸いしたのだろう。  まだ熾火がくすぶっているのは、弱い雨の力ではすべての火を消さなかったからだ。  家があっただろう場所には、燃えかすしかない。まだ熱気が残り、きな臭いにおい。 『ここは、駄目だな。他の場所で食料を探そう』  何もかも燃えてしまった。
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