ワダ先生のお手紙講座

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「あと看板のほうなんですけど、お別れ会ですのでこちらの薄墨で書いていただくようお願いします。ご存知だと思いますが、「涙で墨も薄まってしまった」という意味で」 「もちろん、ご存知ですわ。そんなの常識じゃないですか」 「あっ……はい。じゃ、じゃっ、何か困ったことがあったら、ナガイに言ってくださいね。ナガイ、がんばりますんで」 「ありがとうございます。では、ご用意しときますので」 「はい。ではよろしくお願いします」  パタン。  お別れ会、か。  申し訳ないけどそれどころじゃないのよね。  せっかく夢のような職場に来たのに。  小説が。  一行も、書けないんですけど……!  書けたとしても、職業病というのだろうか。書き出しに「新緑の候」とか「残暑の候」とかがないと気持ち悪くて仕方がない。で、そうなると「いかがお過ごしですか」と続けるしかなくなる。そうすると、もう招待状でしかなくなってしまう。
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