ワダ先生のお手紙講座

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 私は呆然として、紙の束を抱えた木谷さんに向き直った。  清書って言ったって、だいぶ分厚いぞその紙の束……。 「え、それ生きている人に見えないんですか」 「いや、あの、私がガッと、念で、書きましたので。実は生前のうちに書き上げたかったのですが、ある日突然ぽっくり逝ってしまいまして。死ぬに死にきれず、やっとこさ、こさえました」 「あの、私も生きてるんですけど。それだったら私も見えなくないですか?」 「いえそれが。ちょっと妻には見せられなくて」 「どういうこと。見せていただけます?」  紙の束を受け取り見てみると、見えるには、見えた。  だが念で書いているからだろうか。一文字一文字が黒く焦げつき、見方によっては血溜まりのようになっている。 「……ああ、えっと。不幸の手紙ですか、これ?」 「いやいや。ラブレターですよ。ちゃんと読んでみてください」 「はぁ」  言われるがまま読んでみた。  しかし、量が多い。多すぎる。読み終わった頃には日も暮れて、星がきらきら瞬いていた。 「……あの」 「あっ読み終わりましたか」 「なっ、なんなんですかこれ……」 「えっ……と」 「すごすぎます!」
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