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「こちらが筆耕室です」
と、ナガイさんが連れてきた部屋は、湖に面した景観のよい客室だった。
「申し訳ないですが、人手不足と、あと、経営不振もありまして。筆耕作業はワダ先生お一人でお願いしたく」
「かしこましりました」
物の置き場所と作業の手順について、ざっと説明を受ける。
「以上ですが、大丈夫そうですか?」
「はい、大体は」
「分からないことがあったら、いつでも言ってくださいね。住み込みで来ていただけるなんて、本当に助かります。困ったことは何でも、このナガイに言ってくださいね。ナガイ、がんばりますんで」
「はい」
パタン。
重い扉が閉まってロックがかかったとたん、
「……い、えぇぇい!」
私は思いっきり腕を伸ばし、ベッドにダイブした。
窓を開けると、湖のやさしい風がおでこをなでる。
避暑地のホテル。専用の部屋で、字を書く仕事。夢のような職場だ。
ここでなら思う存分、書ける……!
と思って私が最初に取り出したのは、筆でも文鎮でもなく、13インチのノートパソコンだった。
私は、これから。
思う存分、小説を書くのです!
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