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1 シエル
☆
とある日の学院終わり、いつも通り協会の仕事(イルダ)から逃げた俺は、シエルのところへ遊びに行くことにした。
いつものように玄関前に〈転移〉。
ドアをノックする前に、これまたいつものようにメイド長であるローザが出迎えてくれた。
「何のようでしょうか?」
出迎えにしては無表情にトゲトゲしい口調……はいつものことだが、もうちょっと歓迎してくれてもいいんじゃないだろうか。
住む場所や生活に必要な支援をしているのはこの俺なのに。
「遊びに来たんだ。シエルは?」
「シエル様は自室にいらっしゃいます。が、本日は少し、その、魔が悪いと言いますか……」
珍しく小さな溜息と共に顔を歪めるローザ。
「どういうことだ?」
と問いつつ、俺はすでにローザの横をすり抜けて走っていた。
ローザが言い淀む時は面白いことがある時だ。案の定ローザは、背後で「待ってください!!」と焦った声で叫んでいる。
また狼の姿で寝こけているのだろうか?
今度は尻尾を撫で回してやろう、そうしよう。
などとニヤニヤしながらシエルの部屋のドアを開けた。
が、しかし目に飛び込んできた光景に、俺はしばし我を忘れて呆然とした。
「……なんだ、これ?敵襲か…?」
いつも必要以上に生活感のないシエルの自室。
だが今日に限っては、まるで子どもが遊び散らかしたような有様だった。
いつもは綺麗に並べられた本は床に散らばり、食事用に使用している丸テーブルの上には、空いた酒瓶が乱立し、シエル自身はテーブルに突っ伏しているのだった。
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