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「シエル様は本日、少々ご乱心で」
「いや、ご乱心って……」
いつも不敵に笑みを浮かべ、必要以上に感情を表に出さないシエルだ。貴族として教育を受けて育ったのもあるだろう。だから基本的にとてもお上品なのだ、が。
「何があったんだ?」
「……久しぶりにお父様に会われたのです」
「ロイド?」
はい、とローザがどこかうっとりした顔で頷く。
ブランケンハイムの使用人たちは、皆シエルの父親であるロイドに心酔しているところがある。まったく俺には意味不明なのだが。
ロイドは綺麗なモノ好きで、それが装飾品でも魔族でも、人間でも、この世のものなら何でも集めたり鑑賞したりする。
かく言う俺自身、顔を合わせるたびに口説かれる、というとまた変な感じだが、本気で顔面を褒められ、養子に来ないかと言われるためうんざりしているのだ。
「そりゃさぞ面倒な目にあっただろうな」
シエルも顔面を褒めそやされて育ってきたので、こちらも色々な意味で苦労しているようだ。ホント、同情するぜ。
まあだから、何か言われたりされたり、とりあえずヤケ酒したい目に遭ったのだろう。ホント、同情する……
「んー、レオ?」
ドアの前で立ったまま状況を分析していた俺に気付いたシエルが、緩慢な動作で身を起こした。
「お前らしくないなぁ。いつもの作り笑いはどこにいったんだよ」
苦笑いしつつテーブルに近付き、シエルの向かいの椅子に座った。ついでに学院の制服の上を脱いで椅子の背にかける。なんだか長くなりそうだったからだ。
「で、何があったんだよ?お前がこんなんになるなんて珍しいな」
テーブルの上の中身が入った酒瓶を手に、グイッと一口煽る。そして思わず咽せた。クッソ、なんてキツい酒飲んでだ!?
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