2.ユイト

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「ふうん。まあ、どうでもいいんだけど」  と、イリーナが冷めた顔で言った。 「そろそろ行かないとね。今日は午前は野外の授業だよね?」  リアが食事のトレーを持ちながら言う。それに頷いたイリーナも席を立ち、そして俺たちは揃って教室へ向かった。  週に二度程、午前か午後をフルに使って闘技場での授業がある。  素手か武器を用いての格闘訓練と、魔術技能訓練のためだ。どちらも教室内ではできないし、続けて実施する方が効率がいいからだ。  格闘訓練は、最初は他クラス同様ニ対一の組み手だったのだが、うちのクラスはレオと組む奴が哀れになるので(偶数人数なので絶対に誰かがレオと当たってしまう)、レオ対クラスメイトという形で実施している。  それでもおれたちは軽くあしらわれ、本来の何割の力を出しているのかも皆目検討がつかないうちに全員が地べたに這いつくばってしまう。  魔力による〈強化〉も、魔族のような身体能力も抑えて、ただ技のみで相手をしてくれているのはわかる(おれたちは〈強化〉が使える奴は遠慮なく使うが)。  なのに勝てない。もはや人数の問題ではない。  学院に入学したての頃、初めてレオの詠唱を聞いた時、まるで芸術だと思った。聞き惚れた。これが同じ人か?と、それまでの自分の常識が簡単に崩れ去った。  おれには一生あんなのはできない。目指すことすら憚られる。全くもって別次元。それがレオだった。  今でこそ慣れてきたが、それでもたまに、周囲の全てのものを忘れて聞き入りそうになる時がある。  そしてそれは格闘訓練も同じだった。  流れるような体捌きは舞を舞っているようで、でもどこか力強く、自信に満ち溢れた動作にただ圧倒される。一切の無駄がないのだ。単純に美しい。  畏怖の念と羨望と、妬み嫉みを向けられるのは当然だ。  だって完璧なんだ。不気味なくらいに。
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