2.ユイト

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 まずエンチャントなんて高度な魔術は誰も使えないとして。  その他の方法も、この場の誰一人として詠唱文を構築する知識も、もし構築できたとしても、急場凌ぎで作った詠唱文を発動できる技術も持ち合わせていないことは容易にわかった。  つかそんなの出来るの?と、みんな思ったに違いない。  レオができると言うのなら、理論的には可能なのだろうけれど。 「ま、そんなのはお前ら程度には不可能だろうから、俺が手を貸してやる。簡単だ。そのプールとやらの底と側面に〈空絶〉を張り巡らせればいい」  と、レオが言った直後、詠唱も円環も何もなく、何の動作もせずに、何かの魔力が働くのだけが伝わった。 「要は水を通さないもので覆えばいいんだろ?じゃあ簡単だ。〈空絶〉は物理攻撃も魔術による影響も通さないんだ、これで原理的には水は溜まる。お前ら程度でも可能だ」  で、また魔力が漂う。プールに溢れんばかりの水が満ちた。  無詠唱円環構築無し。ただ思った通りの事象を具現化する。それがレオの能力の一つだが、ちょっと残念ではある。  せっかく綺麗な詠唱ができるのになぁ。 「おおおお!すげぇ!!」 「プールだぁ!!」  急拵えで不格好だけど、溢れんばかりに水を湛えた、プール?というものが出来上がった。  飛び込んだら絶対に気持ちいい。散々汗をかいた後だし。 「せっかくだからさ、レオに一番最初に入ってもらおうよ」  誰かが言った。そして、クラスメイトが二人、レオの横に立つ。 「ちょ、おい!俺は別に、」 「いいから!絶対楽しいよ!!」  パッと左右の脇を掴まれて、レオが引き摺られるようにプールの側へと連れられていく。  抵抗しないんだから満更でもないんだ。  クラスの連中はそう考えた。  全く、堅物なんだから、とか。  そして引き摺られるようにしてプールの際へとレオを追いやって、数人がニヤニヤしながら背中を押した。  バシャアン、と水飛沫をあげてレオが水の中へと突き飛ばされる。せいぜい腰丈の水の中へダイブしたレオは、しばしバシャバシャと水を跳ねた。  それからしばらく、レオは顔を上げずただ水の中で尻餅をついた姿勢のまま俯いていた。
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