1 シエル

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「父さんがさ」  珍しい。いつもは人前で“父さん”なんて砕けた言い方はしないのに。父、母、なんて他人行儀なのが普通なのだが。 「僕は意気地なしだっていうんだ」 「その通りだろ」  キッと怖い顔で睨まれた。ついでに空の酒瓶を振り上げる。 「悪い悪い、冗談だ。シエルは別に意気地なしなわけじゃない。そうだな……むやみやたらと食ってかかったりしないし、いつも冷静に、俺の話を聞く方に徹してくれるだろ?そう言うのは意見が言えない意気地なし、とかじゃない。ただシエルが優しいだけだ、だろ?」  我ながらナイスなフォローだ。酔っ払ってんだ、慰めてもどうせ明日には忘れてるだろ。  ちなみに正直言うとシエルは意気地なしではないが、優しいわけでもない。意見が通らないと黙って不貞腐れるのであって、意見を言わないわけではない。つまり非常に面倒くさい。  そんなことを今言ってもどうしようもないので黙っておくことにして。 「レオなら僕のこと理解してくれてるってわかってる。時々ものすごく面倒くさいけど、やっぱり君は僕の一番の友人だ」 「俺もお前のことそう思ってるぜ。面倒くさいってとこも同じく」  シエルは俺の言葉を聞いているのかいないのか、よくわからないままに再度口を開いた。 「父さんがね、お前は真面目すぎる、面白くない奴だな、そんなんじゃ大人になれないぞ、とか言うんだ」 「はあ…?」  大人というのが、または、面白い奴、というのが、ロイドのような、四六時中煌びやかな物に囲まれ、自由気ままに生きている存在を指すのならば、俺もシエルも大人になりたいとは思わない。  金にがめつく、女癖酒癖が悪いと噂されている俺でも、本当は魔術書に囲まれている方が性に合っている。誰も信じてはくれないが。
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