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炭の束を運んでいる瑛里華を見つけて駆け寄ろうとしたら、さっきも話しかけていた新見くんが近づいて行くのが見えた。
「堀北、それ重そうだから持つよ」
「いい」
「でも、こういうのは男の仕事だから」
「だったら自分の班の子助けてあげて」
「いや、おれは――」
「これはわたしの仕事だから」
その様子に、前も同じような光景を見たのを思い出した。
掃除当番になった時、瑛里華がゴミ箱を1人で2つ持って行こうとしていた。
それに気がついて声をかけようとしたのを、廊下にいた男子に先を越された。
掃除当番というわけでもなく、ただ放課後残っていただけの男子だった。
「手伝うよ。一緒に捨てに行こう」という申し出を瑛里華は断った。
今みたいに「これは掃除当番のわたしの仕事だから」と言って。
いつも笑顔の瑛里華がずっと真顔で、その男子とは目も合わそうとしなかった。
その時は、瑛里華って男子に塩対応だな、と思っただけだった。
でも、葉月くんや池田くんには普通に話してる。
どうして?
「真優-っ! 何ぼんやりしてるの?」
「手伝おうと思って来たけど、新見くんと話してるみたいだったから」
瑛里華は笑っただけだった。
「半分持つよ」
「このくらい大丈夫だけど……じゃあ、1本だけ持って」
「1本って」
「見える? この端っこのところの1本が落ちそうで困ってたの」
「これ?」
「それ。それだけ持ってくれたらいいよ。わたし力持ちだから」
「瑛里華に重いもの持たせて、葉月くんは?」
「葉月くんは、火おこしができない他の班の人に連れて行かれてた。池田くんは?」
「先生に『お前大きいからちょっと手伝え』って、連れて行かれたよ。女の子に重い物運ばせて、2人とも肉なしだね」
「それじゃかわいそうだよ」
「じゃあ、焦げた肉ね」
「それもかわいそうだよ」
「だったら、タレなし?」
「塩だけ?」
「そう」
「それならいいかも」
いろんなことが上手く言えないまま、いつもみたいに話始めた。
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