それがわたし

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それがわたし

青葉高校の正門を入ってすぐ左、1Fに職員室があるのが3年生の校舎。 右側には食堂、その隣が図書室。 真っ直ぐに進んで、中庭を通り過ぎて一番奥にあるのが、1年生と2年生の校舎。 この春からこの高校に入学したわたしは、1年の校舎に向かって歩いていた。 「おはよ!」 横からトン、と軽く肩に肩をぶつけられた。 「おはよー」 「今日、席替えだよね? また近くがいいなぁ」 「くじ引きって聞いたよ」 「じゃあ、念を送っとかなきゃ。んーーーっ」 「それ……効くの?」 「わかんない。あ、ねぇ、今日日直じゃない? 昨日わたしがやったから」 「あーそっかぁ。入学したばっかりだからなのかなぁ……集める物多くない?」 「多いね。昨日、何回も職員室まで往復したよ」 担任の木崎先生はスーツにサンダルを履いている先生で、多分お父さんより年上。(頭のてっぺんがちょっと寂しい) 「いつも出席番号1番からじゃ面白くないだろ」と言って、日直を出席番号の最後から降順に回すことにした。 だから、今日はわたしの番。 教室へ向かう廊下で、すれ違った男子の呟く声が聞こえた。 「やばっ。堀北マジかわいい」 青葉高校に入学して1週間、このセリフにも慣れた。 毎日、誰かが、同じようなことを言う。 1年2組のドアは開けっ放しになっていた。 教室の中は、ざわついていて、まだ席に着いている人数の方が少ないくらいだった。 席に着いたところで、前のドアの所から男子が叫んだ。 「おいっ! 堀北じゃない方! 日直だろ! 先生が健康カード集めとけってよ!」 『じゃない方』 それがわたし。 男子の中で、いつの間にかわたしは『堀北じゃない方』という呼び名が定着してしまっていた。 「ちょっと、集めて来るね」 後ろを振り向いて声をかけてから、席を立とうとしたところで、わたしに声をかけた男子の、すぐ後ろから別の声がした。 「名前、藤代真優だろ。まだ覚えてないの? 藤代も、こんなやつ無視しちゃえ」 そう言われて、さっきの男子が言い直した。 「藤代、木崎先生が健康カードを集めとけってよ!」 後ろから、周りには聞こえないくらいの小さな声が囁いた。 「さりげにかっこいいよね、葉月くん」 わたしの名前をフルネームで覚えていてくれたのは、同じクラスの葉月一翔(かずと)くんだった。
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