消しゴムから始まる

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消しゴムから始まる

1限目は英語で、小テストだった。 「机の上、筆記用具だけねー」 先生の指示で、教科書を机の中にしまって、ペンケースからシャーペンと消しゴムを―― 消しゴムが……ない…… ペンケースの中身を全部机の上に出してみたけどない。 リュックの底に手を突っ込んでみたけどない。 最悪間違えたら二重線で消すのでも許されるんだろうか? ついてない…… 先生が一番前の席の子にプリントの束を配り始めた。 「藤代、ふーじーしーろ」 隣から小声で名前を呼ばれた。 隣は1人しかいない。葉月くん。 「何かあった?」 「消しゴムがなくて」 「消しゴム?」 「うん」 葉月くんは自分の持っているまだ新しい消しゴムを半分に折って割ると、わたしに向かって差し出した。 「え? い、いいよ」 「もう割った後だし。もらってくれないと、これどーすんの?」 「あ、ありがとう」 そのタイミングで前の席の子が、振り向いてわたしに小テストのプリントを渡してきた。 プリントを受け取って、葉月くんを見ると、彼はもう前を向いていた。 手には、葉月くんと半分こになった消しゴムがのっている。 消しゴム、使いたくないから間違えないようにしよう。 そう思いながら、プリントに名前を書いた。 この消しゴムを使いたくない。 でも、だからと言って、一日中めちゃくちゃ神経使いながら間違えないように授業を受けるのはさすがに無理! 休憩時間に売店に行って消しゴムを買って来るとか? でも、そうしたら「俺の消しゴムは使えないってことかよ!」って、怒るとは思えないけど、感じ悪い気がする。 そうだ、消しゴムを2個買って、1個は「さっきはありがとう」と言って返す。 で、わたしも新しい消しゴムを使う。 あれ? でもそうしたらまた、「せっかく半分に割ってやったのに!」て、怒るとは思えないけど、感じ悪い気がする。 だめだ……どうやったって、ぐるぐるめぐりになってしまう。 授業が終わるとすぐに、葉月くんが話しかけてきた。 「藤代、消しゴム使った?」 「消しゴム? ううん、使わなかったよ」 「使わないで」 「え……と……」 「あー、ごめん、上手く説明できなくて。これ見て」 葉月くんはノートに適当に文字を書くと、それを半分になった消しゴムで消し―― ん? 消しゴムで消したはずのところが真っ黒になっていた。 「これ、弟がくれた消しゴムなんだ。それが、全然消えないどころか、使うと黒くなる」 おかしくて笑ってしまった。 さっき試しに消した場所以外にも、ノートにはところどころ真っ黒なとこがあるのを見てしまったから。 「わたし、売店に買いに行くから、一緒に葉月くんのも買って来るよ」 「だったら、一緒に買いに行こう」 !!!
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