消しゴムから始まる

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喜んだのもつかの間、すぐに時間割を思い出してしまった。 「3限目体育だから売店行く時間ないよ?」 「そっか。この時間に話してないで買いに行けば良かった」 「でももう小テストはないし、黒板をノートとるくらいなら間違えても二重線で消しとけばいいよね。何なら黒くなっても上から違う色で書いちゃえば見えるし」 わたしの答えがおかしかったのか、葉月くんは笑うのを我慢しているように見えた。 「今、笑った?」 「笑ってない、笑ってない」 「笑ってるよね?」 「気のせいだって」 その時、いつからいたのか瑛里華が声をかけてきた。 「どしたの〜?」 「消しゴム忘れちゃって、売店に買いに行かなきゃいけないって話してた」 「消しゴム?」 「うん」 「もしかして葉月くんもないの?」 「ないというか、あるんだけど、これ」 葉月くんがわたしに見せたノートを瑛里華にも見せた。 「消せてない……っていうか、黒くなってる」 「弟がくれた消しゴム使ったらこうなった」 「わたし、予備持ってるからあげるよ」 「え? うん」 「待ってて」 瑛里華は自分の席に戻ると、リュックの内ポケットと小さなポーチそれぞれから消しゴムを一個づつ取り出して戻って来た。 「どうぞ」 「いいの?」 「俺にも?」 「2人にあげる」 「ありがとう」 「ありがとう。買って返すよ」 「そんなのいいよ。代わりに今度宿題見せて」 「いつでも見せるよ」 「わたしも!」 「やった」 瑛里華はにっこり笑って席に戻って行った。 売店デート(デートじゃないけど)はほんの一瞬の夢で終わっちゃったけど、いい夢を見てしまった。 もらった消しゴムのビニールを開けながら、やっぱ瑛里華ってば天使、なんて思っていた。 でも、どうして2つも予備の消しゴムを持ってたんだろう? 後で聞いてみよう。 そう思っていたのに、そのまま聞くのを忘れてしまった……
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