59人が本棚に入れています
本棚に追加
それがわたし
青葉高校の正門を入ってすぐ左、1Fに職員室があるのが3年生の校舎。
右側には食堂、その隣が図書室。
真っ直ぐに進んで、中庭を通り過ぎて一番奥にあるのが、1年生と2年生の校舎。
この春からこの高校に入学したわたしは、1年の校舎に向かって歩いていた。
「おはよ!」
横からトン、と軽く肩に肩をぶつけられた。
「おはよー」
「今日、席替えだよね? また近くがいいなぁ」
「くじ引きって聞いたよ」
「じゃあ、念を送っとかなきゃ。んーーーっ」
「それ……効くの?」
「わかんない。あ、ねぇ、今日日直じゃない? 昨日わたしがやったから」
「あーそっかぁ。入学したばっかりだからなのかなぁ……集める物多くない?」
「多いね。昨日、何回も職員室まで往復したよ」
担任の木崎先生はスーツにサンダルを履いている先生で、多分お父さんより年上。(頭のてっぺんがちょっと寂しい)
「いつも出席番号1番からじゃ面白くないだろ」と言って、日直を出席番号の最後から降順に回すことにした。
だから、今日はわたしの番。
教室へ向かう廊下で、すれ違った男子の呟く声が聞こえた。
「やばっ。堀北マジかわいい」
青葉高校に入学して1週間、このセリフにも慣れた。
毎日、誰かが、同じようなことを言う。
1年2組のドアは開けっ放しになっていた。
教室の中は、ざわついていて、まだ席に着いている人数の方が少ないくらいだった。
席に着いたところで、前のドアの所から男子が叫んだ。
「おいっ! 堀北じゃない方! 日直だろ! 先生が健康カード集めとけってよ!」
『じゃない方』
それがわたし。
男子の中で、いつの間にかわたしは『堀北じゃない方』という呼び名が定着してしまっていた。
「ちょっと、集めて来るね」
後ろを振り向いて声をかけてから、席を立とうとしたところで、わたしに声をかけた男子の、すぐ後ろから別の声がした。
「名前、藤代真優だろ。まだ覚えてないの? 藤代も、こんなやつ無視しちゃえ」
そう言われて、さっきの男子が言い直した。
「藤代、木崎先生が健康カードを集めとけってよ!」
後ろから、周りには聞こえないくらいの小さな声が囁いた。
「さりげにかっこいいよね、葉月くん」
わたしの名前をフルネームで覚えていてくれたのは、同じクラスの葉月一翔くんだった。
最初のコメントを投稿しよう!