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社会人になって毎日繰り返す日々はそこまで変化がなく、学生の頃のような楽しさはあまり感じられないかもしれない。
それでもそれが平和で、私はこの平穏な日々に満足していた。
1人で暮らす1Kの部屋は白と淡いラベンダーの色味で統一されており、キッチンは扉で仕切られているためかなり過ごしやすくなっている。
居室にシングルベッドと小さめのテレビ、そして床にはラグを敷いてその上にローテーブルを置いていた。
会社からも徒歩10分程と近くて1人で暮らすには十分すぎる部屋の大きさがあるし、キッチンと居室が別れているのもポイントが高く借りることをすぐ決断したのが懐かしい。
大学を卒業してすぐに借りたこの部屋との付き合いも今年で4年が経とうとしている。
私、百瀬陽葵はシステムエンジニアとして働いており、担当するクライアントの希望に沿ってアプリやサイトの開発や設計を行っている。
丁度今担当しているクライアントとの仕事も終わりを迎えるため、次の担当の仕事を割り当てられるはずだ。
今年はまだ5月だというのにとても暑くて本格的な夏が来た時には溶けてしまうのではないかとさえ思う。
そのくらい今も暑くて、私は半袖の白いブラウスにブラウンの薄手のセットアップを着て身支度を整えた。
耳には小ぶりなダイヤモンドのピアスをし左腕には文字盤の小さめな時計をつけて、いつも持ち運んでいるパソコンを仕事用のバックの中にしまう。
最後に全身鏡で確認して胸元ほどの長さの焦げ茶の髪を整え準備万端だ。
会社を出る前にスマートフォンを確認するとそこには数件のメッセージが届いている。
その中の1つを開くと差出人は健二くんだった。
太田健二くんは営業で働く2年ほど付き合っている彼氏だ。
そろそろ結婚もありなのかな、なんて考えている相手だった。
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