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空飛ぶシャボン玉のように
シャボン玉が部屋のなかを泳いでいる。
風に乗れないシャボン玉はふわふわと漂って床に落ちては砕け散る。
私は立ち上がるとベランダの窓を開け放った。
そっとストローの先から息を吹くと、シャボン玉は風に乗り空高く飛んでいった。
──空を飛ぶシャボン玉よ、あの人のところまで私の想いを乗せて飛んでいって。
すぐに砕け散るシャボン玉なのにそんな無理なことを考えて、少女じみていると、ふっと自分を笑ってしまう。
シャボン玉のように心の苦しみも飛んでいって、どこかで弾け散って消えてしまえたら楽になるのに……。
食器を洗っていた時にスポンジから飛んだシャボン玉を見て思い立った。
仕事が休みの日、一人きりの時間は長い。こんなことでもして何かしてないと、どこまでも沈んで底から這い上がれなくなってしまう。
夏が来なければいいのにと願っていた。
あの日の記憶が鮮明によみがえって苦しくなるから。だけど夏はやってきて私の心を揺さぶり続けている。
窓の横にある壁掛けカレンダーが目に留まった。
今日から新しい月が始まる。カレンダーをめくると当たり前のような顔をして、大嫌いな八月が顔を出した。
八月の最後の日は私の誕生日。そして恋人の浩太の命日だ。
辛い記憶を払うようにもう一度と、掃き出し窓からベランダに出てシャボン玉を飛ばす。
シャボン玉たちが、きらきらと光を放ち気持ちよさそうに青空へと飛んでいった。
ふぅーとストローの先に優しく長く息を吹く。
大きなシャボン玉が虹色を映して煌めき、その瞬間目の前でパシャリと弾けた。
生と死の近さを感じた。
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